獣の夢  



「定期的になるんですか?」
 男の言葉に、カカシは無言でただ箸を動かした。
 すると男は、カカシの前からおかずの入った皿をさっとどかし、ちょうどタイミング良くカカシの箸が空を切る。
「なっ」
「定期的になるんですか?」
 男が中忍だということは、今日告げられもしたが、チャクラ量、そしてその動きで大体予想はついていた。
 だが、中忍にここまでの態度を取られるとは。
 幾ら任務で世話をやきにきているといっても、自分が願った話ではない。
「あんた、一体どういうつもりよ」
「あなたに質問をしてるんですけど」
 男は自分のペースを崩さない。
 そのことにカカシはひどく苛つきを感じる。
 殺気をこめた気配をにじませれば、さすがに何か感じ取ったのか男の表情が一瞬固まる。
 だが、男はすぐにすばやく箸を動かした。
「はい」
「んぐ…っ」
 肉を投げられ、思わず飛びつくように口に入れてしまう。
 次々に話そうとすると男の箸が動き、カカシはただ食べるしかない。
「いい肉でしょう。俺、鳥刺って好きなんですよ」
 そういいながら、本当に男は一皿全部カカシが食べ終わるまで箸を動かす。
 そして皿が空になってから、ようやく男は箸をおく。
「すみません。おなか減ってると苛々しますよね。で、定期的になるんですか?」
 おなかが減っていると。
 自分の苛々はそれと一緒にされているのか。
 自分の殺気は、そのせいだと思われているのか。
 そう思うと、どっと体に疲れがやってくる。
「……はい」
 もはや抵抗するのも馬鹿らしくなり、カカシはがっくりとしながら頷いた。
「最近はなってなかったんですけどね」
 どうせ聞かれるだろうと、カカシは先に状況を話すことにした。
 そもそも、火影からの任務扱いになっているならば、この男が外に言いふらすことも出来るはずがない。
「大抵変化はこの姿までで、これ以上は行きません。間が開くときは半年以上あくときもありますし、開かないときは2週間程度ですね」
「そうですか」
 何故か男は少し眉を寄せた。
「きっかけとかは?」
「さぁ?あるなら俺が知りたいくらいですね」
 言った瞬間、今度は男がひどく驚いた顔をした。
「知りたいんですか?」
「そりゃそうですよ。それが分かっていれば、避けることもできるかもしれないじゃないですか」
「本当ですか?」
 ぐいっと迫られるように近づかれる。
「…本当ですよ」
「本当に?」
「…っ」
 カカシは思わず机を叩いた。
 その音に男の体が一瞬震える。
「うるさい」
「…すみません。いきなり、失礼なことを」
 突然男は礼儀正しく謝ってきた。だが、それが今は余計勘に触る。
 ざわり、と獣の血が騒ぐ。
 殴りたいと、血が訴える。
 だが、それだけはとカカシはこぶしを握る。大して覚えてないにしても、目の前の男は倒れている自分を何度か拾っている男なのだ。頼んでるわけではないから、別に自分が恩を感じる必要は無いとしても、最低限の礼儀として今は堪えなくてはいけないと思った。
 過剰に恩を感じる必要は無いが、わきまえないと、それこそ本当に自分は――。
「すみません。俺、結構直情型なんです」
 男は困ったような顔でもう一度頭を下げる。
「…別に」
 その顔を見て痛くなくて、そう告げて部屋を出て行こうとする。
 だが、それは男に慌てて止められた。
「まてっ!」
「っ!?」
 鼓膜に響く大声だ。何故かその言葉に動けなくなり、体が硬直してしまう。
 驚くと尻尾も上がるのか、男の視線がそっちにずれた。
「駄目ですよ。怒ったままどっかに行ってはいけません」
 男の手がおいでおいでと手招きをする。
 その動きに視線が絡め取られる。
 ふらりと吸い付くようにその手に向かうと、四つんばいになって近づいた頭を男の手が撫でた。耳の根元から優しくその手が動く。耳から顎付近まで、横に動く手は、ひどく気持ちよくて一瞬にして苛立っていた気持ちが萎えていく。
「大丈夫ですよ」
 囁くように言われて、言葉に出来ぬ程の眠気が襲ってくる。
「寝てしまいましょう」
 その後男がふかふかですね、と笑ったような気がした。





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