ふたりごと




『あけましておめでとう』
 今年もその挨拶は、メールでやってきた。


 一緒に暮らしていても、自分達の年始の挨拶は必ずメールだ。健二は必ず年末になると実家に戻ると言い出し、結果、佳主馬も強制的に戻るはめになる。
 そしてその間は、絶対に電話にも出てもらえないと知っている。
 その期間、大抵三十日から三日まで。毎年長すぎると文句を言うが、これだけは絶対に、健二は譲歩してくれない。
(まぁそれでも)
 この期間以外、彼は戻れと自分に言うことはない。
 だからこそ、佳主馬もギリギリのところでl、しょうがないことだと理解し、耐えているのだ。池沢家内の家族交流は、日帰りも動画チャットもすることはあるので、さして新鮮味はない。
「あーあ…」
 今日の日付は一月二日。佳主馬は小さく呟くと、口から白い息が出た。
 しかし、ため息をつく佳主馬の現在の場所は東京。
 何故佳主馬が今名古屋ではなく東京に居るかというと、今年は自分の家族は二日から温泉旅行に旅立ってしまったのだ。
 ついていけば、三日には戻れない。
 妹には渋られたが、佳主馬はお許しが出ている三日の正午には絶対に東京に戻りたかった。その結果、二日からぽっかり一人だけ、予定が空いてしまったのだ。
(ま、あの家でたまには健二さんをまてばいっか)
 実家が東京である健二の方が、いつも先にあの家に帰っている。
 掃除をして、自分を出迎えてくれる。それがこの数年続いていることだ。その役割が交代になったと思えば、別に悪くはない。たとえ一人でいなくてはいけなくとも、こうして健二を迎える準備をすることは、どこか楽しい。
(帰ったらまずは空気の入れ替えをして――)
 角を曲がり、住み慣れてきたマンションを見上げる。
 そこで佳主馬はふと足を止めた。夕方でもある今、一月ということもあり大分薄暗くなってきている。
 暫くじっとその位置から部屋を見上げ、数十秒してから佳主馬は駆け出した。
 エレベーターが来るのを待つのももどかしく、階段を数段とびで駆け上がる。
 そして部屋の扉をあけようとして、鍵がかかっていることに舌打ちする。
 乱暴にポケットから鍵を探りカチャリと空ければ、慌てたように内側からガチャンとキーチェーンをかけられた。
「ちっ」
 間に合わなかったかと、佳主馬は舌打ちをしてから叫ぶ。
「健二さん!!」
「っ」
 外からみた自分の家。
 そこには、確かに明かりがついていた。佳主馬は自分のことを殴りたくてしょうがない気持ちになる。
(そうだ)
 この人が。家族が不仲だというこの人が、本当にそんな長い期間帰っているはずなどなかったのだ。
 この数年。
 きっと、この人は一人でこの家で――待っていたのだ。三日がやってくることを。
「健二さん! あけないと叫び続けるよっ」
「っ」
「健二さんが初めてしたときのこととか――」
「うわあああああっ」
 結局すぐに脅しに負けたのは健二だった。真っ赤な顔をして飛び出し、佳主馬の腕を引っ張る。
 それは佳主馬も望んでいたことなので、そのまま勢いよく玄関に入り扉を乱暴にしめる。
 健二は赤い、少し泣きそうな顔をして佳主馬を睨みつけていた。
 佳主馬は完全に睨みつける顔だ。
「……健二さん」
「だって、きみには家族がいるんだ」
 健二は先手を打つように喋り始めた。けれど、佳主馬の興奮は収まらず、遮るように名前を呼ぶ。
「健二さん!」
「僕は!」
 健二も負けじと――佳主馬以上の怒鳴り声をあげる。それはとても珍しいことだった。
「いつもキミを貰っているから。だから、この数日くらいは、帰したいんだ!」
「けど俺はっ」
「きみの言いたいことも分かるよっ。僕だって寂しい!」
 健二がはっきりと、その言葉を口にしたことに佳主馬は少し驚いた。
 健二もその自覚があるのか少し視線を彷徨わせて、言葉が小さくなる。
「寂しいけど、その分…帰ってくる日を待つのは、楽しいんだ」
「…健二さん……」
 佳主馬は慣れた体を抱きしめる。健二は抵抗しなかった。
 ぎゅっと力を入れれば、同じようにきつく抱き返される。
(本当に、俺は駄目だ)
 いつまでも、この人に心配をかけている。結局四歳下の、少年のままだ。
「ねぇじゃあさ健二さん」
「……うん」
「来年は、もう少しだけ日程を譲歩してよ。31日の夕方には向うに帰って、2日にはこっちに帰ってくる。それだけ居れば、はっきりいって十分だよ。邪魔もの扱いされてるから、いつも」
「………」
「痛み別けだよ、健二さん」
「……」
「1日までは向うに居る。長年騙してくれたんだし、それくらい譲歩してよ」
「……うん」
 小さく頷いた健二に、もう一度佳主馬は腕の中の存在を抱きしめてから、あ、と声をあげる。
「健二さん」
「…何?」
「すっごい今更な感じもするかもしれないけど――」
 大きい声出して本当にごめん、と佳主馬は小さく謝ってから続ける。
「今年も、宜しく」
 笑って言うと、健二も唐突過ぎる出来事に吹き飛んでいたそれを思い出し、同じような顔をして笑った。
「こちらこそ、今年も宜しく」






年あけましたね!
ざくっとした話に、ほぼ書いたままの状態ですが!…勢いだけで今年も駆け抜けます…(土下座)

お約束過ぎるかもしれませんが、これまた王道カズケン年始ネタでした(笑)
まぁケンカズでもきっと同じ展開になる気はしますが。

今年はどんな年になるかなぁ。
ひとまず1月のインテとオンリーのコンボが楽しみすぎてたまりません…!ヤバス!

今年もどうぞ宜しくお願いしまあああすっ