スターダスト 3



「やだもう昼寝?」
「あれ、夏希ねぇ」
 ゆすられて目を覚ますと、そこに立っていたのは今年はこれないといっていた夏希の姿だった。
「うん、さっき佳主馬と着いたところ」
「兄貴きたんだ」
「そうそう。弟から珍しくメールで呼ばれたからじゃない?」
 にやにやと笑う顔には、こちらも笑うしかない。
「まぁ愛されてるから」
「あははは」
 狙い通り声をだして、楽しそうに笑われた。
「二人、そろそろ帰るみたいだから呼びにきたの。ほら、お見送り行こう」
 ふと時計を見ると、確かに時間はもうそれなりのものだった。朝イチから、残念ながら顔を見たこともないばーちゃんの誕生日会で盛り上がりすぎた。むしろ、あまりに頑張る大人たちに、毎年何故ここまでと念入りに打ち合わせすらされている誕生日会の詳細に、もはや疑問を呈す気にもならない。そしてご近所から延宝まで訪問者も多く、色々とてんてこ舞いの一日だった。
 時刻は夕刻に近いが、かろうじてまだ空は青い色を保っている。
 この家は相変わらず面倒くさい。けれども、この8月1日という日にちは、昔からけっこう好きだったのかもしれない。
(夏は嫌いだけど)
「結局部活は入ったの?」
「んーフットサルやってる」
「サッカー?」
「まぁそんなもん」
 仲間内で勝手にクラブ化しているだけだが、ノリを分かってくれる顧問も見つかったのでもしかしたら正式に部活扱いになるかもしれない。
 あんまり真面目になるのは面倒くさいと思うが、盛り上がっているうちはいいかと思ってはいる。
 ただ陣内家の皆には、多分何にしろもっと本気で真面目にやれと言われるだろうなと苦笑いが浮かぶような気持ちになる。
(つーか、国体優勝とかが多すぎるんだって)
 化け物だと、宴会時にされるさまざまな親戚達の話を聞いて思わずにはいられない。
 小磯健二だって、あんなに冴えない人物のくせに何気に世界的な知能の持ち主なのだ。
「ま、頑張りなさいよ」
「お手柔らかにお願いします」
「何弱気なの」
 バンと思い切り背中をたたかれて、にこにこと笑われる。
 そしてたどり着いた門には、もう身支度をした二人と沢山の親戚達が立っていた。そして、兄の姿もその中にあった。
「ゆー坊」
 にかっと佐久間が笑う。その笑顔に一瞬体が引く。
(昨日の今日で)
 ここまで普通にされるとは思っていなかった。露骨に引かれることはないにしろ、嫌悪から少し遠巻きにされるか、もしくはそうではなくとも軽く距離を開けられるかと思っていた。
(本当、なさけねー)
 色々見られて聞かれてしまった。
 恥ずかしさが、まるで佐久間と距離を開けたがるように、あんな中途半端な行動を自分にさせたのだと一晩たった今はよく分かる。
 だが、いつも通りへらりと笑う男に、ガシリと腕で首を抑えられた。
「お前だろ、キング呼んだの」
「さぁ」
「さぁってなぁ」
 言いながら軽くしめられるが、佐久間はどこか嬉しそうにも見えた。
「佐久間、仲よくなったんだ」
 健二が少し驚いたような声を出す。
「はっはっは、まぁないーだろ」
「いやそれ自慢にならないから」
 どういう意図かは分からないが、取り敢えずつっこむと何故か親戚達は笑わず納得するように頷いていた。
「でも結構昔も懐いてたわよねーそういえば」
「あの頃はまだゆーも、妹みたいだったわよねー」
 それをいつものように「もう忘れてよ」と情けない顔をして笑うと、今度は皆が顔を見合わせてはじけるように笑った。
 その瞬間、ぐいっと腕を引っ張られる。それは本当一瞬の、触れるような接触だった。
(え)
 驚いて目が真ん丸となった自分を見て、佐久間がどうだと言わんばかりに笑う。
「ざまーみろ」
「は……」
 親戚らは多分誰も気づいていなかった。
 茫然と目の前の佐久間を見返す。昨日の自分が仕掛けたものに比べれば、いまどき幼稚園生かと言いたくなるようなそれだったが、子供のいたずらが成功したような顔に、自分はなんて声をかけるべきか。
 佐久間の手は、僅かに緊張のせいか汗をかいている気がした。
「ぶはっ、はは、はははは!」
 それに気づいた瞬間、笑いが先にはじけた。
「ちょ、何」
「どうしたのよ」
 親戚らは自分の笑い声に驚いたようだが、腹の底から笑いがとまらなかった。げらげらと笑っていれば、何故か兄に軽く頭をはたかれる。
「っていうか、佐久間さん。後で話聞かせてくれる…?」
「はっはっは! …ってちょお冗談だって、ねぇちょっと!」
「へ、え?」
 兄と佐久間が話ているが、取り敢えず自分は見ていた兄に襟首を目いっぱい引っ張られ、既に後ろに投げ捨てられた。
(あーあ)
 地面に転がって、ようやく収まってきた笑いと共に空を見上げる。
 真っ青に澄んだ空が目いっぱい広がる。暑くて、たるくて、面倒な夏。楽しいことはアイスが美味いくらいだ。友人らとも全然こっちにいる限り遊べやしない。
(遊ぶといっても、ただだらだらするだけだけど)
 芯の通っていない、なんちゃって陣内家の自分。
(でもまぁ)
 夏は嫌い。
 それでも、少しは楽しいこともあるかもしれないと思い直す。
 セミのやつらが一生懸命鳴く、わずかな価値くらいはもしかしたら――。
(なんてな)
 少しだけ今年の夏は、ソーダ味のアイス程度には爽快だ。
 今この一瞬だけのことだとしても。
「いつまで寝てるんだって」
「へへ」
 怪訝な顔をしている翔太に引っ張られ起き上がる。
 まだ親戚らも、そうでない二人もわいわいと騒いでいる。13歳の夏の思い出のすべては、今目の前に広がっていた。




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ということで

弟の登場でしたああああああ(笑)
妹と差別化するためにあだ名だけ登場させてみたけど、まぁまだ始まってもないというような…ね…ははは
パワーが残っていれば、これがエピローグで本番?というか恋愛に発展する弟が高校生になってからの話も書きたいです。どうなのかな。完全妄想というかただのBLというかごにょごにょー!!!!


少しでも気に入ってくださった心広い方いましたら、ぜひ応援してください。笑