さぁ、じっくり話し合いましょう




(だるい…)
 さすがに今回の修羅場はきつかったと、体がまだ休息をほしがっていることからも感じたが、佳主馬はそれを無理矢理振り払うように目を開けた。
 隣には、誰かがいたような形跡が残っている。佳主馬はそこを見つめながら、全く動かない頭で少し前のことを思い出そうとした瞬間、ダイニングから声が聞こえた。
「で、なんで?」
 その聞き間違うはずもない声に、佳主馬の意識が一瞬で覚醒する。
「なんでって何が」
「だから、なんで佐久間が佳主馬くんを手伝ってるわけ」
(そうだ、健二さん……)
 仕事が仕上がり、まず一番最初に倒れるように眠ったのは佐久間だ。それから健二効果でまだ意識がはっきりしていた自分は、確か食事を作って――。
「記憶がない…」
 薄い布団がかけられているが、それを自分で引っ張りだしたのかも定かではない。
 だが、佳主馬にとって重要なことはそこではなかった。
(健二さんが居る)
 まさしくその一点だけだ。
 上半身を起こし、思い切り体を伸ばす。怒られても殴られてもいいので抱きつきたいと、久しぶりの健二を堪能したいと思ったところで、続く声が聞こえた。
「佐久間、絶対今面白がってるだろ」
「そんなことありませーん」
「誤魔化す気もないわけね…」
「あっはっは。やだなぁ健二くん」
「……僕だって、それなりに脅すネタはもってるんだからね。たとえば去年佐久間が別れた――」
「うわあああああっ」
 ガタンガタンと二人が何か音を立てる。そのままよく分からない単語を言い合っている二人の声に我に返り、佳主馬はその部屋に足を踏み入れて、動きを止めた。
「あ、佳主馬くん」
「起きたか?」
「佐久間がうるさいからだろ」
「俺!? 俺だけのせいなのっ」
 話をしている二人は、取っ組み合っていたのか非常に距離が近い。佐久間の腕は健二の首をにかかり、健二は佐久間の首周りのシャツを引っ張っている。
(………)
 佐久間を羨ましがらないことは、決めている。
 決めてはいるが。
 自分がなりたいのは、佐久間のような友人という位置ではないが。
 佳主馬は出来る限り穏便な気持ちで、健二にこうしてすぐに会えただけでも嬉しいと言い聞かせ、二人の前の席に座る。健二がよく見える席に、少しだけ心が落ち着きを取り戻す。
(ああ、やっぱり健二さんはいいなぁ)
 最高だと、うっとりと思わず見つめてしまう。
「キング、なんか色々漏れてます…」
「何が」
「ちょ、なんで俺には殺気!?」
「そんな失礼なものは向けないよ」
「向けてるから! ガチ今向いてるからっ」
 今度は佐久間が健二にしがみつくように縋って、悲鳴をあげる。佳主馬はその動作に再び何がか沸点に達しそうになるが、とある話を思い出す。
 いわゆる北風と太陽だ。
(……、落ち着け)
 怒っても二人はよけいくっつくだけ。
 健二の顔を見て、必死に穏やかな気持ちを思い出す。先日健二がこの家に入ってきた時の喜び。二週間ぶりの健二の声に顔。
 だが欲を言えば。
「健二さんと二人がよかった…」
「……だから、漏れてますキング…」
「佐久間と二人で楽しかったんでしょ?」
 にこりと笑って健二が答える。
「仕事だし。それに楽しかったとしても、俺が一緒に居て幸せなのは健二さん」
 偽りなど全くない本音を答えれば、何故かみるみるうちに健二の顔がそのまま赤くなっていく。
 そしてそのまま、今度は健二が佐久間にしがみつく。
「……」
 その様子に、もはや何かがプツリと切れた。
「なんで、そんなくっつくかな!」
「うわっ」
「ひえっ」
「くっつかなくても話できるしっ。っていうかじゃあ俺も隣に行くっ」
「ちょ、キング、俺を一緒にするなっ」
 ガタンガタンと椅子を動かす音と、ドタンバタンと人が暴れる音が狭い部屋に響き渡る。
 そんな騒動のまま、徹夜明けの平和な午後はゆっくりと穏やかに過ぎていこうとしていた。





リク内容は「佐久間といちゃいちゃ(もしくは佐久間の話ばっかりする)健二にやきもきする佳主馬」
なんか、確実に変化球になった…よ…?笑
ごめんなさい!!!!

莉瀬様リクエストありがとうございました!
ちなみにこの話の続きで、またまた次のリクエストを消化予定です。