観察対象、昼寝中




「おわ」
 デスマーチが終わり気絶するように眠っていた佐久間は、覚醒したと同時に反射的に飛び起きた。
(え、っと…)
 外は明るく、時計を見ると昼過ぎをさしていた。
 ぼけっとした頭のまま周囲を見回す。古いが広さが取りえで借りた部屋は家賃が安い割りに2DKと大変お買い得で、自分はその自室として使っている部屋のベッドで倒れこんでいた。
 ひとまず、何も考えないままダイニングに出れば、佳主馬の字でメモが置かれている。
『ご飯は台所。掃除は健二さん』
 そのメモを見て、ねぼけていた意識が少しずつ取り戻される。
(あーそうだ、終わった瞬間ぷつんと意識が途切れて…)
 あの二人はその先も、少し起きていたということだろうか。佳主馬の殴り書きの字からすると、多分佳主馬はこのメモを書いた時点では、相当眠かったのだろう。
(それでも起きてた理由なんて、一つだよなぁ)
 あくびをひとつして、まずは洗面所で顔を洗う。
 それから、指示通り台所を見ればカレーが出来上がっていた。
 池沢家直伝のカレーはとても美味い。ごろごろ野菜の入った普通のカレーの日もあれば、骨付きのチキンカレー、インドカレー風に、ハッシュドブーフと色々なバリエーションも多々あるが、どれも舌に馴染む上、辛さも絶妙だった。
 ちなみにカレーは佐久間の大好物だ。
「やり」
 小さく喜んでから、ふと二人はどこにいるのだろうと思うが、この日の照り具合からいえば間違いなくもう午後だ。
 帰ったのだろうかと思いつつ、もうひとつの作業に当てている部屋を見れば、配線だらけのその部屋に二人は居た。
「…ありゃりゃ」
 呟いたと同時に笑いが漏れる。
 腹が満ちて眠けが堪えられなくなったのか、その様子が想像つくような少し不思議な姿勢で佳主馬が眠っている。
 そして、おそらくその上に薄い布団をかけたのは健二で、健二もその布団の上から眠ってしまっている。
 二人の距離は大変近い。
「似合ってるんじゃねーの」
 言いながら佐久間は苦笑いが漏れる。
 なんとなくそっと近づいて、二人をそっと見下ろす。
(結局さ)
 部屋に飛び込んできて、佳主馬を見つけた時の健二の顔を思い出す。
 健二は、本気で佳主馬を心配していたし、自分を睨んだあの時の目は絶対に本人は認めないだろうが――完全に嫉妬だ。
 佳主馬に対しても、もともとそれなりに砕けていることは知っていたが、来た時の態度は明らかに酷い。
(少しは焦ったし、面白くなかったんだろ?)
 佳主馬に、健二を焦らすような意図はなかったとは分かっている。
 まっすぐで、特に健二に対してはまっすぐすぎる青年。それ以外の場所では違う顔を見せても、健二のことをまるでとても綺麗で大切なもののように見つめて、まっすぐにぶつかっている姿はまぶしい以外の何者でもない。
(若さって、訳じゃなくて…資質なのかね)
 二人と交友関係を持ってから、もう自分もそれなりの時間が経つ。
 健二の実は頑な性格も分かっていたし、佳主馬のアプローチを拒みつつも離れない態度にいつも色々予想はつけていたが、今回のことは決定打だ。
「ん…」
 健二が何か寝言のように呟いて、そのまま少し佳主馬の方に近づく。
 少しだけ悪戯心がわき、その間に足を入れ、健二を軽く逆側に動かしてみる。
「うー」
 すると健二は何か嫌がるように、再び佳主馬の傍へと転がってくる。
「ぶはっ!」
 げらげらと笑いたくなるのを、必死に口を押さえてなんとか堪える。
(おいおいおいおい)
 面白い。
(寝ているときの方が、お前百倍は素直なんじゃねーの)
 佐久間は存分に見つめた後で、後日からかいのネタにしようと写真を一枚撮る。
 それから好物のカレーを堪能するべく、上機嫌でダイニングに戻っていったのだった。






リク内容は「健二と佳主馬のお昼ね」
確実に…こんな観察される昼寝のリクではなかったと…わかってはいるんだ…

kai様リクエストありがとうございました!
ちなみにこの話の続きで、またまた次のリクエストを消化予定です。