物理部的日常




「前々から思ってはいたんだけどさ」
「あー」
 カタカタと、狭い部室の中にパソコンのキータッチ音が響いていた。
「佐久間、趣味悪いよね?」
「お前に分かるような安い趣味をしてねぇんだって」
「…どーみても、このTシャツはないと思うんだけど」
「気に入ってるくせに」
「気に入ってない!」
 健二の画面には、結局使い続けることになった黄色いアバターが忙しく動き回っている。
「けど可愛いって言われてんだろ?」
「ブサ!可愛い」
「可愛いじゃん」
「……」
 健二は顔を歪めてながら、隣を見る。夏希を筆頭に、あの一家には確かに好評ではあったが、それが素直に喜んでいいものなのか、健二は未だに判断がつかない。
 佐久間のセンスもあれだが、健二自身もセンスには全く自信がない――というより、興味がなかった。
「本当、佐久間の家のタンスが怖い…」
「失礼な」
「変なTシャツの山だよ、絶対」
「コレクションだって、コレクション」
 佐久間がシャツの下に来ているTシャツは地味に毎回違う。その誰も気づかない変化を見るたびにむなしくなるのは何故なのか。
 いっそもう誰も気づかないし、評価されないのであれば同じTシャツを着てきて欲しいと結構前から、健二は思っていたりする。特に、何かウケを狙ったようなTシャツを着てこられたときにはなお更だ。
「つーかな、Tシャツは場所とらねぇの」
「場所?」
「そ、こうやってこー巻くとさ、こんくらいになるわけよ」
「ふーん。手巻き寿司みたい」
「そうそう。あ、今日のおやつは米系にしようぜ、米」
「いいね」
 健二はそこでふと、画面の自分が着ているTシャツの柄を見て呟く。
「どんぐりって美味しいのかな」
「さぁな。けど、主食にしてるってことは美味いんじゃねぇの? 聞いてみれば」
「誰に」
「お前に」
「…佐久間」
 睨みつけようとするが、既に彼はパソコンの画面しか見ていない。
 小さく息をついて、健二も再びキー操作を進めながらふと思う。 言われてみれば、確かにリスは主食にしている。
(どんぐりか)
 はたしてその味は、いかなるものなのか。
「お! 着替えアイテム販売始まるって。お前のも適当に買っとくぞ」
「うん」
 適当に返事をすると、今度は『どんぐりの味』を調べ始めている自分のパソコン画面を覗かれる。
「そういや、学校の裏にでっかい木あったろ。OZで調べたら食べ方見つかるんじゃね? どーせなら食おーぜ」
「あ、なるほど」
 カチカチと検索内容を変更する。人でも食べられるどんぐりは多く、更に種類も沢山あるらしい。
「しかしさぁ」
「何」
「これくったら、お前まじでリスだよな」
「じゃあ佐久間にはバナナ準備しておくよ」
「悪いね、俺普通の果物で。けど、バナナなら熟れたヤツね、当然」
「ええええ。もしかしてあの土色の平気で食べるの? うわ…」
「ちょ、お前何その目! てか、あれは熟れてこそだろ」
「えー」
「ガチで!? ちょっ、俺バナナ買ってくる」
「普通のヤツにしてよ」
 そうして十数分後、帰宅した佐久間の手には再びピザまんが二つあり。
「完全に佐久間も落ちたよね、ピザまん」
「悔しいけど見ると食いたくなるんだよな…。あーちくしょう。てか、飲み物はお前買いにいけよ」
「うん。後でね」
「つーか、飲み物ないと、まじで喉に詰まる」
「…はいはい」
 小さくため息をつきつつ、ピザまんを購入してきてもらった手前、今度は健二が席を立つ。

 今日も物理部は平和だった。






佐久間が変Tコレクション趣味だったりしたら面白いと思っただけの話。
そして結局次の衣装も佐久間に任せて、新しいのがきてから健二ははっとするといいと思う。
微妙にどんぐりの種類が違うとかその程度のリニューアルだね。間違いなく(笑)

ちなみにこの話における無駄な設定その2。
佐久間は食べ物を食べる時に、必ず飲み物が必要な人。

まじでどうでもいいな!(笑)