きみの背中に全力アタック! sideK @



「佐久間」
「あー?」
 横を見ないでも、話しながら佐久間がお気に入りのコーヒー牛乳を飲んだことが分かった。
 佐久間本人は否定しているが、けっこうな甘党であり、健二からするとジュースと変わらないような状態――砂糖がたっぷり入った味のコーヒーを良く飲んでいる。
 それでも彼なりのルールによって、コーヒー牛乳の気分と、いちご牛乳の気分、お茶の気分と使い分けられているらしい。
 健二も釣られるように安い紙パックのアイスコーヒーを飲みながら、今聞きたい飲み物のことを考える。
 数秒間をあけてから、口にした。
「――お酒飲める?」
「あ? まぁ普通程度は」
「えええーっ!」
 ガタン、と健二は椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がった。
「なんでなんでっ」
「いやなんでって。親父のちょっとくすねたりとか」
「……ショックだ…」
 ガタンと健二は椅子に座りなおす。本当にこれは頭を抱える勢いだった。
 まさしく『裏切られた』という気持ちでいっぱいだ。
「なんだ。お前上田で飲まされでもしたのか?」
「……」
 9月。
 学校が始まってまだ間もないが、上田の話は佐久間もよく知っている。画面越しとはいえ、実際の人物達と会話だって何度もしているのだから、その性格すらある程度は把握していた。
「無理やり…飲まされてさ」
「あー」
「一口でもう無理!って思って」
「だろうなぁ。お前見るからに駄目そうだし。得意だったらまじうけるわ」
「困り果ててたら、代わりに飲んでくれたんだよね」
「はは。夏希先輩も強そうだもんなぁ。そりゃお前も男がすた――」
「……佳主馬くんが」
「そうそう、かず――キング!?」
 健二は両手で顔を覆う。
 日本酒だ。ビールグラスに注がれたそれを、ひょいっと横から救いの手であっさり飲んでくれたのは、現在中学一年生の佳主馬だった。
『この人、飲んだら倒れるよ』
『なーに言ってんだ。慣れよ、こういうもんは!』
『本当飲まないの? 美味しいよ。あ、ワインは?』
 そんな普通の会話がなされて、呆然としている間に女性陣に見つかり、さすがに佳主馬に飲ませるのは良く思われていないようで、未成年二人組はそれ以上飲まされることはなかった。
 なかったのだが。
「分かる! この衝撃! ショック…っ」
「まぁ…ショックだわな。つーか、別にでももういいじゃん」
「……やだ」
「は?」
「僕だって一杯くらいは飲めるようになりたい。最近、お酒の広告見るたびに考えちゃってさ…」
 年下の佳主馬が平気で飲んでいたのだ。顔色も変えずに。
 ずずっと健二は再びアイスコーヒーを飲み、ため息をつく。
(普通は、逆だよ、ねぇ)
 この自分の感覚は一般的だと信じたい。
 自分が佳主馬を庇いたいところだが、むしろ佳主馬に庇われ、更には彼に苦いアイスコーヒーを飲ませるきっかけを作ってしまった。
(ブラックで作らなきゃよかったなぁ)
 懐かしい上田の日々に思いをはせていれば、佐久間が椅子をギシリと鳴らした。
「なんかコツとかあるもんなのか」
「う、うーん」
「慣れって気もするけど、ま、聞いてみっか」
「え」
 佐久間が電話をかけ始め、健二は問いかける。
「誰に?」
「キング」
「うわあああああああっ」
 






お約束はお酒ってことで。
大人になった後の二人が、それぞれ酔うとどうなるかは考えるだけで10本くらい書けそうな素敵な題材な気がする。
あああああ(ごろんごろん)