閑話休題2




「じゃあ、目玉焼きには」
「醤油」
「ソースっ」
 ぐっと体を伸ばしながら廊下を歩いていれば、目指している部屋からそんな会話が聞こえてきた。
「おはよう、ございます」
 軽く頭を下げつつ顔を出せば、朝食は半分程並んでいた。
 その中で、席に座っているのは数名ほど。朝食はある程度の人数が集まったところで、とりあえず食べ始めることになっている。
 そして先ほどの会話は、佳主馬と夏希、そして直美のものだった。
 横からにやにやと見ている直美をよそに、二人は視線をぶつけ、じっとお互いを睨むように視線を交わす。
(好みの話かな?)
 健二は会話を聞きながら、空いている席を確認する。
「あらら、んじゃ次。えーっと、夜寝る時は?」
「パジャマ」
「パジャマ」
 佳主馬は朝食を取りながら、興味なさそうにしつつもしっかりと答えている。夏希は完全に食事の手が止まっているようだ。
(なんだかんだ、仲はいいんだよなぁ)
 離れた場所に座るのも気が引けるが、熱中している人たちを邪魔するのも気が引ける。
「直美も喋ってばっかいないで、さっさと食べちゃいなさい」
「はーい。じゃあラスト。嫌いな野菜は?」
 その問いに、一瞬二人が考え込むのが分かった。二人からは背に向かった方に立っていた健二は、理一が穏やかな顔で自分を見ていることに気づく。
「楽しそうですね」
「うん、楽しいよ」
 東京と名古屋では、生活環境も違うだろうし、更に夏希は留学もしている。
(色々違いがあるんだろうなぁ)
 のんびりそんなことを考えていれば、二人がほぼ同時に声をあげた。
「人参」
「ピーマン」
 お互い一度無言になる。
「えぐみのある野菜」
「苦味のある野菜!」
「あはは! お互い正解じゃない。となると勝敗を分けるのは…」
 直美の目が健二を捕らえる。
(勝敗?)
 理一の側に腰掛けようとしていた健二は首をかしげるが、そのまま無理やり直美の隣に座らされる。
 そしてずいっと目の前に差し出されたのは、目玉焼きだ。
「さ、あんたこれ何つけて食べる?」
「は、はぁ?」
 同時に目の前に差し出されるもの。
 夏希からはソース。
 佳主馬からは醤油。
「……」
 この選択肢は、少し前の会話を彷彿させる。
「あの、これってもしかしなくても」
「そ。あんたの好みクイズやってたの」
「何してるんですかっ!」
「で、どっち?」
 はっと気づけば、二人が真剣な顔で自分を見ている。
 その視線に硬直していれば、直美がくねっとしなを作る。
「夏希のこと、嫌い?」
「ま、まさかっ」
「じゃあ佳主馬のことが、嫌い?」
「い、いえいえ!」
 そして健二は気づく。
「…直美さん、僕で遊ばないでください……」
「あんたって本当ドンくさいわねぇ…」
 今頃気づくのかと、直美はやや呆れたようにそう告げる。
 しかし目の前の二人はまだじっと自分を見ているわけで。
 健二はそっと手を伸ばし――間に置かれていた、塩を手に取った。
「………塩で」
「えー!」
「何それ」
 二人からはブーイングの嵐だ。側で理一が声を出して笑っている。
「その年でそれはねぇ…」
「え、ええ!」
 新しい味噌汁を持ってきてくれた万理子は、何かを思い出したかのようにそっと呟く。
 理香もそれを引き継いで、うんうんと頷く。
「あんた本当心配だわ、将来。二人どっちでもいいけど、誰かがチョッカイだしてきたら、すぐコロっといくんじゃない?」
「い、いきませんよ」
「そんなの想定内だし。ガードする」
「そうそう。健二くんだもん」
「……あの、二人とも…」
 即答した健二にかぶさるように、あっさりと二人は言い切った。
「で、健二さん」
 静かに食べ進められていて気づかなかったが、朝から二杯はお代わりをしていた佳主馬が改めて健二を見る。
「どっちが好き?」
 それは目の前の調味料のことだと思いたい。
「…本当、夏希先輩とは絡むよね」
「そりゃね」
 はは、と力なく笑った後、健二はどうやったらこの場から逃げれるのだろうかと、それ以上何かを言いそうな佳主馬の口にひとまず一口大の高野豆腐を突っ込む。
「あーずるい! 私もっ」
「え、ええええええっ」
 動揺のあまり顔を赤くして椅子から転げ落ちた健二が、落ち着いて朝食をとれるのはまだまだ先の話だった。







そのタイトル通り閑話休題で。