おまけA




(さて)
 OZ経由で駅側にあるビジネスホテル――といっても、最近のホテルは綺麗で立派だ――を予約して、佳主馬にもその旨メールをした。
 場所は何度か泊まったこともありよく知っている。
(そう、何度か…何度――)
 何度か泊まったときのことを思い出し、赤くなりそうな顔を数度振って健二は意味も無く咳をした。
 計画してきたわけでもない。理一に連れられるまま来てしまったが、自分は本当にこういった突発的行動に向いていないと思わずにはいられない。
 気持ちが、落ち着かないのだ。浮き足立っているようで、怯えているようで。
(駄目だなぁ)
 だが、今日は少しだけでも素直になりたい。そう思うのは、高校での佳主馬を見てしまったせいなのか。この環境がなせる技なのか。
(けど、…無理)
 出来ることなら両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまいたい。
 もはや完全に自分の気持ちとの戦いだ。
 そんなことを考えながら、飲み物を買ってこうと側のコンビニに入ったときだった。
「ああーっ!」
 響いた声に、思わず飛び上がりそうな程驚いた。
 一体なんだと振り返れば、そこには高校生が立っており、健二はなんとなく自分の後ろを振り返り、そのまま進もうとして腕を掴まれた。
「おにーさん!」
「え」
 再び声をあげた彼の顔を見て気づく。
(あ)
 言葉は僅かにしか交わしていないが、間違いなくそこに立っている彼は、あの高校で会った人物だった。
「佳主馬、くんの」
「そうそう。友達っす」
 にかりと笑われて、健二も釣られるように小さく笑う。
「あ、えっと、佳主馬くんは今一緒には…」
「あ、いいのいいの。おにーさんに俺さっきの続きが聞きたくってさ」
「へ?」
 さっき、とは何のことだろうかと思ったところで、思い至る。
「……中々、頑張るね」
「やーだって興味あるっしょ」
「まぁそうだよね」
 その気持ちは分からないでもない。
 佳主馬は多分目立つ。本人にそんな自覚はないだろうが、同じクラスに彼のような人物が居たら、どこか目を引くことだろう。
 だがしかし。
 その気持ちが分かろうとも、健二は内心冷や汗をかかずにはいられない。
(どうやって、僕に逃げろと…?)
 嘘はとにかく得意ではない。
 その自分が、はたしてこの青年の質問を上手く逃げ切れるかは、全て自分にかかっていた。
「あ、相手の人に聞かないと、僕が勝手に喋ることは、できないよ?」
 必死に考えた言い訳を口にしてみる。じっと黒目がちな目で見つめられ、妙に心臓に悪い。
 顔が引きつりそうになるが、必死に堪える。
「んじゃさ、学校でのアイツの写真とかと交換ってどうどう?」
「え」
「こういうのとかー。彼女さんなら見たくない?」
 パチっと差し出された携帯を覗き込んで、健二は言葉を失った。
(う、うわぁぁっ)
 目の前の青年の腕で首を抱えられ、一緒に映っている佳主馬は物凄い不機嫌そうだ。
 そして、これは学校行事中なのか、ジャージ姿の佳主馬が外で野菜を刻んでいる写真もある。
「あと、あいつのだと…」
「っ!」
 思わず飛びつきそうになった。
 昼寝だ。
 机に突っ伏して寝ている姿だ。
(こ、これは…っ)
 完全に健二は相手の戦略にはまっていた。
「これさー女子にもウケがいいから間違いなしっ」
 だが、その一言に健二ははっと我に返る。写真から視線をずらし、彼の顔を見る。
 内心ごめんなさい、と謝りつつも、もう聞かずにはいられなかった。
「や、やっぱり、彼もてるよね?」
「まぁそりゃね。けど、あいつ脈がないって分かるからなーすぐ」
「へ、へぇ」
「で、どう? この写真でちょっと聞いてみてよ」
「は、はははは」
 健二は笑いながら考える。
(欲しい)
 写真は物凄く欲しい。だが、リスクが高いことは出来ない。けれど欲しい。
 悩んだ時間は短かった。
 健二は結局携帯を取り出してしまう。赤外線通信で写真を受け取り、目の前の彼に伺いをたてる。
「え、えっと。何を聞けば、いいかな?」
「写真! 見たい!」
「か、顔は難しいかもよ」
「えーじゃあさ、おにーさんから見てどう? 前にあいつ可愛いってすっごい言っててさ」
「ぶはっ! は、ははは、が、外見以外にしない?」
 健二は震える手で、携帯を動かす。するとちょうど佳主馬からメールを受信する。
 それによるともうホテルに着くという。
(やばい)
 健二は慌てて、少し買い物してるから少し待ってて、とメールをする。佳主馬からはすぐに「分かった」とだけメールがきた。
 それを相手にメールを送ってくれたと誤解をした彼は更に続ける。
「え、外見以外ならいいって?」
「ひっ、う、うんっ!」
 勢い頷いてしまって、はっと気づく。慌ててせめてと健二は指を差し出す。
「……質問は、二つまでで」
「まじでっ!? んーじゃあ…えっと、彼女さんと居るときあいつってどんな感じ?」
「優しい、かな」
「優しい!?」
「優しい。佳主馬くん、優しいよね」
 相手はポカンと口をあけていた。その反応に逆に健二は首をかしげる。
「面倒見もいいよね」
「うーまぁ確かに、それは、うー…」
 納得がいかないのか想像がつかないのか、彼はまだ唸っている。
「凄くマメだし。たまにすごいかいがいしいなぁって思うよ」
「ええええええっ。俺、メールの返信ろくにこねー…」
「え、そ、そうなの」
 それには逆に健二が驚く。
「や、返事はくるけど、一言っつーか…」
「そ、それは寂しいね…」
「だよね! おにーさん彼女さんにも言ってよ。友人も大事にしろって」
「あはははは」
 乾いた笑い声しか出ない。
 長引けばそれだけ自分が不利な気がし、健二はそそくさと次を促す。
「ふ、二つ目は?」
「ん、それは」
 彼はこそっと健二の耳元で囁く。
「あいつ、うまくいってんの?」
「え」
「まーのろけるくらいだから、うまくいってるんだと思うけどさ」
 笑う顔に、健二は数秒呆けてから釣られるように優しく笑った。
「優しいんだ」
「や、別にそーじゃね−けどさ。俺は、結構面倒みてもらってるし? あいつ超王様だけど」
「あははは」
 健二はふと、とても安心した気持ちになる。彼は、受け入れられている。
 自分が心配するようなことでもないが、彼はこの場所で繋がりを得て、生きている。
「仲いいよ」
「え」
「二人、すごく仲がいいんだ」
「そっか」
 彼は笑ってから呟いた。
「…ユミちゃんとキリエには、やっぱ諦めろっていっとくか。ううう」
 健二の笑顔はそこで固まる。
「…ユミちゃん? キリエちゃん?」
「やーあいつずるいの! 彼女いるって最近じゃひろまって、全然相手にしてねーのに、すっげぇ美人なの! うちのミスだって。あ、この子この子」
 再び携帯操作に長けている彼が写真を見せてくれる。
(う)
 最近の子は、本当に発育がいい。
 健二からすると、本当にこれが高校生かと疑いたくなるが、少し派手で化粧が濃い気がするが確かに可愛い。隣に居る子は、逆に清楚な感じがするが、笑顔がとても可愛らしい。
「左がキリエで、隣がユミちゃん」
「……へぇ」
 ピっと押されると、隣の写真に映る。
「あ、これ動画だ。これ、傑作でさー」
 そこでは後ろからキリエに飛び掛られて、バランスを崩したもののなんとか堪えた佳主馬が振り返り、さすがに女子相手だからか、八つ当たり宜しく佳主馬がもっていたペンケースが携帯の画面――おそらくこの青年に向かって飛んでくる。
 それをすんでで避けたのか、カメラが一度ぶれる。そのまま、佳主馬が廊下に座り込んで笑っていたもう一人をひっぱり立たせ、背中に張り付いていた女子をおろして二人に対し何か呆れたように文句を言っている。
 しかし、聞いている二人は至って楽しそうだ。
「………」
 健二はすっかり忘れていた。
 携帯の動画に夢中になり、非常に近い距離で二人携帯を除きながら、すっかり忘れていた。
「何してんの」
 その声が、その場に響くまでは。
 どうやら逃げ足にも長けている彼は、さっと携帯を仕舞うと一枚の紙を健二に押し付ける。
「んじゃ、おにーさんまたねー! よかったらメールくれたら、俺また報告すっから!」
(ひっ)
 逃げ消えた彼と違い、自分は逃げることができない。
 別れる直前は上機嫌だった彼の声が、曇っていることなど明白で。
「健二さん?」
「………」
 ひとまず貰った紙を握り締め、隠すように後ろのポケットに思わずしまってしまうと、速攻手を突っ込まれ奪われた。
「ひゃっ」
「なんで、受け取ってるの?」
「え、あ、や、そのね」
「って、いうか、あいつと何はなしてたわけ?」
 今日は、これからとても長い一日になりそうだった。







しかし、あれだ。思い切りタイトルをつけることを放棄してるな、これ(笑)
でも楽しかったーーーー!(笑)

クラスメイトくんは名前を多分付けることはないまま、登場を重ねてもらいそうです。

そして、おまけAによるさんからオマケ以上のものをもらいましたぁぁぁ。可愛い…!
11月21日が記念日になったぁぁぁぁ(ごろごろごろ)