健二編

※健二が女の子です※
※しかもなんか馬鹿っぷるっぽい※




 
(胸、かぁ)
 健二は自分の薄っぺらい体をまじまじと見てから、先日の上田で緊張しつつも温泉にはいったときの夏希の体を思い出した。
 柔らかそうな肉付き。そして、女性らしい膨らみ。
 それにすらあこがれるようにぽーっと見てしまったが、自分も同じ性別とはいまだに思うことができない。
(気の迷い、だよなぁ)
 なぜ自分は今こんな狭い箱の中にいて、上半身裸で立っているのか。
「お客様、大丈夫ですか?」
「は、はい! ちょっとまってください」
 あわてて返事をして、目の前にある――某有名メーカーのブラを手に取る。
(本当、何してるんだろ)
 よく分からない熱さを顔に感じつつ、混乱する気持ちでなきたいようにも感じながら、健二はそれを試着したのだった。


「なんで」
「え?」
 基本的に二人とも外出に興味はない。そのため、デートといっても、あまり人ごみの多い場所に行くことはないが、それでも佳主馬は自分のためになのか、時たま色々な場所に連れ出してくれる。
 気づけばつい引きこもってしまうのは、自分の悪い癖だ。
 だから、というわけではない。今日の健二は、ひどく緊張していた。
 場所が新たなデートスポットとも言われるOZのテーマパークの一角だからではなく、二週間ぶりに佳主馬と会えたからではなく。
 それは、間違いなく自分の格好にあった。
「……お、おかしい?」
「可愛い」
「っ い、いわないでよ! そんなこと!」
「健二さんが聞いたんじゃん」
「おかしいか、おかしくないかでいいのっ」
「その選択肢じゃ足りないし」
 あっさりといってくる佳主馬に、勝てなくなったのはいったいいつの頃なのか。
 出会ったばかりのころは、こんなことなどなかったはずだ。
(うう)
 今日の健二は、珍しく”お洒落”といえる範囲の服を着ていた。
 アウターからブーツに小物まで。健二にしては非常に気を使ってみた。といっても、ほとんどお店のお姉さんと夏希のアドバイスによるたまものだ。
 こんなふわふわしたファーと呼ばれているものを、自分が身につける日がくるとは、本当に思っていなかった。
 じっと佳主馬の視線を感じ、逃げ出そうとしたとき、佳主馬の手がふと伸びた。その手は、健二にとって予想外の場所にふれてきた。
「え」
 その手は、なんと健二の胸に触ったのだ。この場所で。
「え、えええええええっ」
「やっぱり」
「ちょ、え、佳主馬!」
 慌てて名前を呼び捨てにしてしまうが、佳主馬は不思議そうに首をかしげた。
「なんで今日、あげてるの?」
「っ」
 かーっと顔に熱が集まる。もう駄目だと思うほど混乱がピークに達する。
 触られたことよりも、指摘をされたことが、もう限界だ。
「う」
「え、ちょっ」
 じわりと視界が滲んだせいか、佳主馬が驚いた声をあげる。
 そしてその手はすばやく健二の腰を捕まえた。今までのパターンから健二が走って逃げることを、想定したのだろう。
 事実、健二は走り出そうとしたところを、その動きで止められた。
 ぐっと引き寄せられて、しょうがなく健二は顔を隠すために頭の頂上を相手の胸に押し付けた。
「佳主馬くんの馬鹿、あほっ」
「…あげないでいいのに、って言いたかったの。だって、苦しくないの?」
「っ」
 結局抱きしめられるような形になり、ここがある意味そんな恋人たちのデートコースでよかったと思うと同時にはっとする。
 ばっと顔をあげたことで、佳主馬とばっちり目があった。
「だ、だって」
 佳主馬から極力周囲に視線をずらしつつも呟く。
「そっちの方が、見た目が…」
 そこまで言い終わった段階で、ふっと佳主馬の目が細くなる。やばいと思ったときには、その場で口付けられていた。
(ん、んっ)
 なんでと思うし、イチャついている人間が多いとはいえ、こんな場所だ。
 抵抗をしていたが、力では当然かなうはずもなく。
 接触になれてきたからだは、最終的に相手の意のままになってしまった。
「っ、あ…」
 息も苦しくて、顔が離れたときには相手に完全にもたれかかっていた。
「他の男に見せて、どうしようって?」
(っ)
 健二はそこで、佳主馬が誤解をしていることに気づく。
 だが、同時に腹のそこから良く分からない熱さがこみあげる。さっきとはまた違った熱さだ。
 佳主馬が何を思ったのか。
 その反応が顕著にでたのが、目だったのか、表情だったのか。
 とろんとした顔を見て、佳主馬の表情も少しやさしいものになった。
「健二さん?」
「…人並みの、女の子みたいな格好で、隣に居てみたかったの」
「え」
「……僕がいたら、みんな不思議そうな顔をしてる、から」
 昔ほど男に見られることはなくなったし、その誤解を隣であるく佳主馬のために減らそうと髪も少し長めにはしている。
 完全に伸ばすことは心情的にまだ無理だが、ショートカットの範囲で、今までの中では伸ばしているほうだ。
 ふと、佳主馬の目がまた揺れる。
(え、あれ?)
 なんで、と思うが、相手は間違いなく怒っている気がした。
「なんで、それで健二さんが悩むわけ」
「へ?」
「そんなことより、俺としては俺のことを意識して悩んでくれるほうがいいんだけど」
「っ」
 逃げ出したい。が、逃げれない。
「カ、佳主馬くんは格好いいからっ」
「…そう思ってもらえるように、努力はしてるよ。健二さんにつりあう男になるのが、目標だし」
「え」
「俺はいつでも、健二さんを追っかけてるの」
 少しだけバツが悪そうに言われ、少し驚く。
「嘘だ」
「…嘘じゃないし」
「嘘だ。絶対嘘!」
「嘘じゃないって!」
 ポカンとした顔のまま、まじまじと佳主馬の顔を見る。疑われたことを怒っているのか、照れているのか、僅かに佳主馬の顔が赤い。
 テーマパーク。まだ本当にきたばかりだ。
(……なんだろ、これ)
 健二は、申し訳ないと思いつつ、小さく呟いた。
「……今日、もう帰りたい」
 健二は、珍しくそんなわがままを口にした。
 佳主馬がはっとしたような顔になる。だが、その顔を見て、健二は笑った。
「家、かえりたい」
 ぎゅっと手を握り締めて言えば、相手からも握り返され、同じように、晴れ晴れとした顔で笑ってくれた。
「賛成」
「…今度は、選択肢、満足だった? ――1つしか用意できなかったけど」
 佳主馬が今度は小さく声を出して笑う。
 二人して密着するように寄り合いながら、結局まったく中を見ないまま、この日の外デートは終了してしまったのだった。







この話は、宿題でもらったにょた健二さんを自分が書いたらどうなるかしら?
と妄想していましたら…超長いストーリーになりまして(笑)
諦めてとりあえず、そんなアレコレ乗り越えた後の短編のようなイメージです。はははは。
私が考えると、にょた健二さんは自分を女として全く自覚していない(母親が女という性別が大嫌い)性格で育っていて、色々あってくっついた後に、それなりに照れたりするような自覚も出てきている妄想です。
本当妄想だな!!!!

そして内容は今はやりの某方の日記ネタから(笑)


何やってるんだろ、俺…(BY健二)