「俺いつも思うんだけどさ」
ずっと無音だった部室で、ポツリと佐久間が呟いた。
「何」
「カップラーメンの、線にあわせてお湯いれるって無理じゃね」
佐久間の言葉に、健二は画面を見て、必要な言語を打ち込みつつ佐久間のお湯の注ぎ方を思い出す。
「そりゃ、あんな風に入れるからだろ」
「お前は無駄に細かい」
カタカタとキーボードを打つ音がお互いの間を響く。
「勢いあまってヤカンの蓋まで落とすやつには言われたくないよ」
「一滴ずつの勢いで落とされれば、その間に麺のびるだろ」
カタカタとキーボードの音が響く。
「味が薄いよりはいいよ」
「麺が延びたら意味ねぇし」
カタカタと軽快な音が暫く響く。
「待ち時間調整すれば平気だけど、佐久間のは調整とれないじゃん」
「いやいや、これはそういう話じゃなくて――あ!」
佐久間が突然思いついたように大きな声をあげる。
「線のところあたりにさ、外から手を当ててお湯をいれればいいんじゃね」
「ああ、確かに」
「これ、いけるべ。よし! 俺ちょっとカップラーメン買ってくるわっ」
弾丸のように佐久間が飛び出していく。
お湯を沸かすほうが実ははるかに手間がかかるのだが、健二も試したい気持ちがあったのでお湯を沸かす準備をする。
物理室に置かれている、どこからか借りたままになっている電気コンロを引っ張りだし、セットする。
(あ、これ)
先日モンゴルの土産だと教師がもってきた茶葉が目に留まる。
(確か体積が何倍かになるって…)
そう思うとうずうずする。
比較的小さいこのやかん。お湯を沸かしてどの程度占拠されるのか。
ふと気付けば、健二はそれを沸騰しつつあるお湯の中に投下していた。
(おおっ)
本当にあっという間に水分を吸収し、膨らんでいく。
(3.2倍くらいか…)
所用時間は2分。まだ膨らむのだろうかと暫くじっと見つめ、そして――。
「ただ今ー」
「あ、お帰り」
「もうピザまん出てたぜ」
笑顔で帰ってきた佐久間の手には、ピザまん二つ。
「ありがと! やっぱピザまんだよねー」
「なれると癖になるんだよなぁ、最初邪道だと思ってたのに」
「だから最初から素直に食べればよかったんだって」
「うるせぇよ」
にやにやと笑う健二に佐久間が悪態をつく。
なんの疑問もお互いもたず、その日の物理部は、お茶をピザまんで小休憩をとったのであった。
ヤマなしオチなし意味なし!なんかこう、佳主馬や夏希がいたらイラっとしそうな感じで(笑)
健二よりはしっかりしてるけれど、どうでもいいときは佐久間もぐだぐだであってほしい。