オマケ@



「おまたせ、健二さん」
「あ…、…」
 駅前の喫茶店で、鞄に入れっぱなしだった数学誌から顔をあげ、健二は一度動きを止めた。
 急いできてくれたからか、佳主馬はさっきのままの制服姿だ。
「健二さん?」
 前の椅子に腰かけながら、佳主馬が再度声をかける。
「あ、え、や…、制服」
「え?」
 問い返され、健二は我にかえる。
「いや、あ、あの、そうだ。お友達はよかったの?」
「……、全然いいに決まってる」
 怪しむ視線を感じつつ、健二は必要以上に笑顔を作る。
「そ、そうなの? でもいい子そうだね。結構若い子って苦手なんだけど、可愛らしい感じが」
「あいつの話はどうでもいいよ」
「あ、はい…」
 しゅんとしつつ、注文する佳主馬をまたじっと見てしまう。
 すぐにその視線気付いた佳主馬が再び健二を見る。健二はあわてて視線をそらした。
「健二さん」
「は、はい!」
「なんか変じゃない?」
「へ、変じゃないよっ!」
 ばっと顔をあげるが、自分でも駄目だと思う。じっと探るように、その視線を受けてしまえば、幾ら視線をそらせようが自分に勝ち目があるはずがない。
 もともと他人の目をじっと見ることも、見られることも苦手なのだ。
 それなのに、佳主馬は、鈍いといわれる自分ですら分かるほど、感情を露にし見つめてくるからどうしようもない。
「う、うう…」
 健二はがくりとうなだれてから、下から睨むように佳主馬を見た。
「……制服」
「え?」
「制服、格好いいねって! 似合ってるよ、ね…」
 半分ヤケになって言えば、佳主馬は酷く驚いた顔をした。
 実際佳主馬の制服姿は似合っている。格好いいし、同級生と騒いでいる時はとても可愛くも見えた。
(ぼ、くは)
 指先まで熱くなる。理一のアドバイスのせいで自覚してしまった自分の深い感情の処理が、全くと言っていいほど追いつかない。
 そのタイミングで、店員のお姉さんがアイスコーヒーです、と佳主馬の前に飲み物を置いていく。
「制服が?」
「え、う、うん」
「…ふぅん」
「え、嫌いなの?」
「嫌いっていうか。健二さんと年の差を感じるから、あまり好きじゃなかったんだけど」
 それに恥ずかしいし、という言葉は佳主馬の口の中で消えた。
「ええっ、可愛いよ!」
 佳主馬は何かをそこでいいかけたが、ふと口を閉じた。
 じっと何かを考えるように健二を見た後、にこりと佳主馬が笑う。その笑みは、どちらかというと、可愛らしい幼さの残る笑みだった。
 その顔に恥ずかしいくらい、健二の顔がかーっと顔が熱くなっていく。
「健二さんがそういってくれるなら、制服もありなの、かな」
 囁き終わった後、その口元に浮かぶ微笑は、今度は確実にその年齢で浮かべられるようなものではなく。
 艶も混じったその姿に、健二は完敗するしかない。強烈過ぎるコンボだ。
「…興味本位できた僕が馬鹿でした。もう帰る」
「何いってんの。帰すわけないじゃん」
「へ?」
「うちに泊まるのと、ホテルどっちがいい?」
 テーブルの上の手を取られて、囁くように聞かれる。慌てて手を引こうとするが、ガシリとつかまれてしまう。
「ちょ、か、カズ、こ、ここ外!」
「うん。だからさっさと答えてよ。うちでいいの?」
「そ、それは駄目!」
「…健二さん、帰っちゃうんだ」
 ポツリと言われた言葉に、健二は何かを吐き出すかと思った。まるで数年前の佳主馬に戻ったような、少し年頃の可愛らしい言葉。
「あ、あ、あ」
 掴まれている手も意識してしまい、健二は再び自分の負けを悟る。
「…どっかでびじねすほてる、とるよ…」
「じゃあ夕方一回帰って着替えるから」
 にこりと、嬉しそうに佳主馬が笑う。
「……そのまま帰っても」
「何?」
「……勉強」
「してる。絶対受かるよ。健二さんとこれ以上はなされなくないし、絶対に受かるよ」
 その自信が羨ましくもあるし、同時に恋人として心が揺らぐのも事実で。
(……本当、僕駄目だ)
「じゃあ」
 健二は伝票をせめてと、さりげなく取る。
「すぐ連絡するから、家帰ってて」
「一緒に」
「…先に帰ってた方が、すぐ出てるでしょ」
 その言葉に、佳主馬が少し驚いた顔をした後嬉しそうに、にやりと笑った。
「すぐ帰って、すぐに来るよ」
(今日くらいは)
 ここまで来てしまったのだ。
 自分の情けない独占欲を知ったからとか、理一に言われたからとかではなく。ちょっとだけ。たまには。
「――待ってます」
 佳主馬の、もっと色々な表情を近くで見たいから。
 健二も、素直にそういって笑ったのだった。






ばかっぽーですね。
本当すみません。こいつら何してるんだろ、本当に…(笑)