instinct



「ひ…っ」
 地雷を踏んだ、と理解をしたときにはもう遅かった。
 飲んできたことがいけなかったのか、それとも遅くなったことか。貧困な自分の想像力では、たいした意見が浮かばないが、迷っている間に健二は床に倒れこんでいた。
「か、かずまく」
 ん、までは言うことができなかった。
 言葉を飲み込むように、食べるように口付けられる。喋ろうとしていた舌を軽く噛まれ、反射的に硬直する。その隙に、熱いくらいの舌が自分の口内を好き勝手に動き回る。あまりにも露骨で、いきなりなそれが恥ずかしくて、息苦しくて少し暴れると、今度はぐっと膝で性器を強く押された。
(ひっ)
 本能が、これはヤバイと訴えてくる。
 佳主馬は、間違いなくかなり――怒っている。
 怒っている、というのとは少し違うのかもしれない。ただ、自分は彼の何かを強烈に刺激してしまったのだ。
 佳主馬は、普段の冷静さや自分に向ける穏やかさの後ろに、激しさを常に持っている。それは、佳主馬が佳主馬たるために必要なもので、時たま彼自身をも苦しめるが、その剥き出しの力は、迫力は、半端ではないことを健二はよく知っている。
 それが今、抑えられることなく自分に向けられようとしていた。
「ま、って。佳主馬くん、理由」
「後で」
 自分が刺激したもの。多分、おそらく、彼の闘争本能。
 間近で迫力のある顔を突きつけられて、一瞬息が詰まる。
 真剣になっているときの彼は、普段隠されているその美しさも一気にあふれ出すようで、健二はもはやどうしようもない。
 体が震えるくらい、圧倒的だ。
 そしてその瞳に、隠しきれていない怒りに、むき出しの欲情が見えると、もはやどうしようもなくなってしまう。
 見下ろすように激しく見つめられ、膝からの刺激に、性的に触れてくる手に、健二は呼吸があがる。
 まってとか、やめてとか、言いたいことは沢山ある。
 だがただでさえろくな体力のない体は更に酒で、体力を奪われてしまっている。佳主馬が、まるで肉食の獣が、獲物を仕留める時のように首筋に齧りつく。
「い、たっ」
 その動きで健二は理解をした。同時に、はっと青くもなる。
 先ほど、誰かにそういえば同じようなことをされなかっただろうか。倒れそうになった酔っ払いを抱えたときに、吸血鬼よろしく噛み付かれたのは、確かに自分だった気がしてならない。それは、間違いなく子供の遊びと同じレベルだったが、今同じことを佳主馬にされれば、それは、とても性的なものだった気がしてしまう。自分とその相手との間には、そんな繋がりが欠片もなかったとしても。
 何かを言葉にする前に、ベルトが引き抜かれ、ズボンが中途半端に下ろされる。
「ひあっ」
 ぐっと性器をつかまれて、少し強い力で動かされる。薄い胸にも噛み付かれ、よく分からない声が漏れていく。
 そのままあばらを舐め、下肢に近づいていく頭に、健二ははっと体を起こした。
「だ、だめ!」
 絶対にこのまま行くと、佳主馬は舐める。だが幾らなんでもそれはたまらない。
 もともと苦手な上に、外に一日中いたのだ。
「なんで」
 だがその一言で、恋人は更に不機嫌になる。背筋がゾクリとした瞬間、健二は思わず叫んでしまった。
「な、なら僕がするからっ」
「え」
「僕がする」
 佳主馬の動きが再開する前にと、どこかのスポーツブランドのジャージを健二は手にかける。
 動きながら、もしかしたら、やはり自分は酔っ払っているのかもしれないと思う。今までも一度か二度しかしたことがない行為。しかもここはまだ明るいダイニングだ。
 それなのに何故か自分は。
 吸い寄せられるように、健二はまだ柔らかいそれを口に含んだ。
 どうしたら気持ちが良いのかなど、ろくに分からない。
(けど、僕が上手くないことくらいは)
 佳主馬も分かっているはずだと、それでもいいだろうからと彼の性器を愛撫する。唾液をこすりつけるように舐めて、ぼうっとしてくる頭で、彼の舌の動きを真似るように動かしてみる。
 固くなっていく感触を、手ごたえを感じると、嬉しくて奥まで咥えるよた。苦しい。けれども、その中で何か違うものも感じる。
(これが)
 いつも自分の中に入る。そう思うと、下腹部に確かな重みを感じた。
 顎が痛くて、味も決していいものではない。それでもどこか酔うように舌を、口を動かしてしまう。
「っ、もう、いいよ」
 引っ張られるように外される。じっと佳主馬が健二の顔を見てぐっと腕を引っ張る。力が入らない体は引っ張られるまま、ベッドの上に投げられた。
 佳主馬が少し遅れてかぶさってくる。
「そこまでされたら、俺も頑張らないと、ね」
「え」
 それはどういう意味なのか。
 にこりと笑う顔に、何かを言う前にぬめりをまとった手に、固くなりかけていた性器を握られる。
 潤滑油など一体いつの間にとったのか。
「一度抜かして」
「っ」
 健二の性器に佳主馬の性器が重ねられて、一緒に動かされ手で刺激される。
「ひあ、っ」
「一度抜けば、後はゆっくり、するから」
 昂っていた体はその刺激を喜んで受け取る。こすり付けられて、もみこまれて、嬲られる。突然の激しさに、呼吸が引き連れそうになる。
 だが先に達したのは珍しいことに佳主馬だった。熱いものを下腹部にかけられる。
 そのままその手が、吐き出した精液をまとい後ろへのばされる。
「ひあっ、あ」
 何故か熱さを感じる指が、中へと入ってくる。勃ちあがったままの性器が浅ましくも震えるのが分かった。
 そのままゆっくりと潤滑油を足されながらかき混ぜられる。
 そして性器の先端に感じた――。
「い、やぁっ! な、んで」
 舌で舐められる。そのまま穴を刺激するように噛み付くようにくわえ込まれ、制御などできないまま内部の刺激と共に達した。
「あ! ああっ」
 体が震える。先に吸い出すように激しく口を使われ涙が出た。
「あ、あ、あぁ…っ!」
 出し切った後も、精管に残ったもの全てを吸い出すように吸われて、腰が抜けるほど感じる。目を見開いたまま、体が異常なほど震えた。
 だが、内部に入った指は納まらない。増えて、じわじわと熱を生んでいく。
「ねぇ、こっちとさ、この辺りって、どっちがいい?」
「ひっ」
「こうとか?」
「あ、ああっ」
 体がどんどん熱を持っていく。
「や、やめて。あんま、いじらない、でっ」
「なんで。気に入らない? じゃあ、奥とか」
 ぐちゃりとした音と共に、深くはいった指に悲鳴が漏れた。
「ああ。じゃあこの辺りで、こうとか」
 ぐぐっと奥を押し付けるように指を回され、感じきった声が漏れたことに眩暈がした。
「ああ、この辺なんだ」
「ち、」
 違う、ということはできなかった。指でぐっぐっと押し付けるように動かされて、言葉など発することができない。
 強烈な快感に頭の奥がチカチカとする。達したばかりなのに、体が、急速に。
「あ、あ、あああっ!」
 達してしまうと思った瞬間、思わず自分で性器を押さえてしまった。
 それをどう思ったのか、佳主馬がその隙間から先端をくわえ込む。
「ひっ」
 神経が焼ききれる。
 自分で性器を押さえている刺激すら、腰が震えた。
「ひあ、ああ、あーっ、あーっ」
 指が動き、先端を嬲られ、もう死ぬかもしれないと思う。涎が口の端を伝うのが分かるが、もうどうしようもない。
 指が勢いよく抜かれ、あてがわれた熱に身をすくませる暇もないまま、一気に突き入れられる。
 耐え切れるはずがなかった。
 結局すぐに達してしまったが、そのまま腰を掴まれて揺さぶられる。
 誰の声だと思う。
 少し高い声。ねっとりとした、快楽に犯された声。
 乳首を押しつぶすようにもまれ、それにすら佳主馬の性器をぎゅうぎゅうと締め付けるきっかけになる。
「う、っ」
 恥ずかしい。恥ずかしすぎて、気持ちよすぎて、泣きそうになる。
「ねぇもっと、見せてよ」
「ひっ」
「もっと、感じきってるのを、見せて。そうしたら――」
 その首筋のあとを、チャラにしてあげるから。
 囁かれた言葉に、涙で潤む視界を何とか少しあけて佳主馬の顔を見る。見て後悔をした。
「っ」
 ぞくぞくとしたものが、背筋を通り抜ける。
「あ」
「いいね。もっと、もっとねぇ。健二さん」
 佳主馬が動きを再開する。
 手を伸ばせば、佳主馬が上半身を倒して口付けてくれる。貪るようなキスが苦しくてたまらないのに、自らそれに応えてしまう。
 幾ら熱を吐き出しても収まらない。
 自分は本当におかしくなってしまったのではないかとたまに思う。
 内部を擦られることが、気持ちよくてたまらない。それなのに、何故佳主馬はまだまだ自分の何かを暴くように、分析するようなことをするのか。
 奥を刺激されたまま、結合部分を撫でられてしまえば、熱が体内で暴走する。
(キモチイキモチイキモチイ)
 これは誰だ。誰がそんなことを思っているのだ。
 ぐちゃぐちゃとした音が響く。自分の腹の上で、佳主馬が吐き出したものと、自分のそりかえったものが垂らすものが混ざっていく。
 眩暈がしそうだと思った。
 それでも、貪ることをやめられない自分達は、一体なんなのだろうと思う。
 恋人であり、お互いの支配者であり――。
(ああ、もう、なんでも)
 佳主馬の抉るような動きに、声が、体の奥底からの喜びが止まらなくなる。
 健二は熱に支配される体で、全ての思考を放棄し、目の前の自分を貪る体に吸い寄せられるように抱きついた。







エロが書いてみたくなって書いたら…見事エロしかねぇ!!
健二がひーひー言えばいい。もっとぐちゃぐちゃするかと思ったら、案外あっさりしてた。
ちぇ。
…疲れているんだな、私。