続?年頃の男の子



 朝起きると、何故か頭の奥はスッキリしているのに、体が疲れていた。
(なんだ…)
 ぼんやりと暫くしていれば、体が完全に固まっていることに気づく。それは筋肉痛だとかそういうわけではなく、物理的に動けないのだ。
 何かが自分を拘束している。
 そして、すぐ側で聞こえる寝息。
(そう、寝――寝息!?)
 健二は一瞬にして覚醒する。すぐ隣に、しがみ付くようにして眠っているのは佳主馬だった。
 何故佳主馬がここに居るのか。
 覚醒したものの、記憶は大混乱を起こしすぐには繋がらない。呆然と佳主馬を見つめつつ、起きたてだというのに嫌な汗をかきながらみつめていれば、瞼が震えるように動いた。
(あ、睫長いなぁ)
 ゆっくりと目が開く。綺麗な瞳が意思を持ち、そしてふっと口元が柔らかくほころぶ。
「おはよ、健二さん」
「あ、うん。おはようございます」
 ふっとその体が離れて、温かい温度が離れていく。佳主馬がふわっと伸びをするのを呆然と見ている。
「健二さん」
「うん」
「久しぶり」
「あ、そう、だね。OZではよく会ってるけど、やっぱり実際に会うと、なんか違うよね」
「うん。僕はいつも健二さんに会いたかった」
「ははは、……――え!?」
「会いたかったんだ」
 口元の笑みを深くする顔は、朝っぱらで、それでいて自分より年下の少年だというのにどこか艶っぽいから驚いてしまう。
 健二が混乱しているのなど、すぐ顔に出る性質だからこそきっと手に取るように分かっているのだろう。
 ふと佳主馬の顔が近づいてくる。
 驚く暇もなく、その顔が健二の鎖骨を舐めた。
「ひっ!」
 そのまま飛びずさろうとするが、佳主馬の手が腰に絡んでそれを阻む。
「危ないよ」
「あ、ごめ、じゃなくて! え、えっ」
「昨日の、忘れられても困るし」
「え、え」
 昨日、という単語に。
 健二の脳みそがようやく何かを思い出す。ここで何かが起きなかったか。
 ふと視界の端にはいったタオルで、健二は一気に顔に血が上った。
「ああ、あああああっ!」
 倒れたい。死んでしまいたいほど恥ずかしい。
 一体自分は。
 年下の友人と。そう、友人だと思っていた彼と何を。何で。
「ぼぼぼ、ぼくはっ、え、ちょ、な、えええっ」
「落ち着きなよ」
「いや、だって!」
「落ち着きなって。――健二さん」
 呼ばれて、真っ青になっているのま真っ赤になっているのか分からない顔をあげた途端、食いつかれた。唇に。
「!?」
 半開きだった口内に、何かがはいって来る。それは当然食べ物ではない。佳主馬の舌だ。
 生暖かいそれが、我が物顔で口内を動く。奥歯。健二の舌。歯並び。確かめるように丁寧に舐められ、齧られ、すすられる。
「ひ、あ…っ」
 薄いパジャマの中に手が入り、腰を撫でられ――健二は、はっとなる。
 朝日だ。
 朝だ。
 今は、もう朝だ。
「かかかか、佳主馬くんっ」
 驚くほどの素早さで、飛びずさった健二に佳主馬が一度小さく舌打ちをする。それでもそのままじりじりとまた近づいてくる。
「何?」
「こ、これは、あの」
「昨日言ったじゃん。健二さんが好きだって。聞いたら責任とってよって」
 言われてみれば、確かにそんな会話があったような気もする。
「…ずっと、大切な人なんて、親族以外では出来ないと思ってたんだ」
 ふっと佳主馬の視線が下を向く。
 池沢佳主馬という少年は、出会ったときから自信に溢れていた。
 打ち負けたとしても、その気持ちはまっすぐで、常に大量の輝きを放っていた。
 悔しがる姿も、何もかも強烈な力だ。
 その彼が、らしくもなく今、そっと視線をそらすように下を向いている。健二は咄嗟に佳主馬の肩に手を伸ばした。
「佳主馬くん…」
「僕のこと嫌いになった?」
「まさか!」
「うん、だよね。ならよかった」
「…あれ」
 にこりと佳主馬が笑う。
 肩に置かれた手をどかされ、しっかりと指を絡められる。そのままぐいっとひっぱられて、耳元で囁かれる。
「本当に、健二さんに会えてよかったと思ってる」
「っ」
 ぺろりとその頬を舐めて、佳主馬は体を離した。
 健二を怒らしたいわけではないのだ。
「健二さん、顔洗って朝食、食べに行こう」
「う、あ」
 健二は顔を真っ赤にしたまま唸っている。
「…その後で、OMCの非公開映像紹介するよ?」
「え! 嘘本当っ」
「嘘はつかないよ」
 佳主馬は着替えてくると、そのまま姿を消した。最初に部屋で着替えていた健二は先に居間へと向かう。
(あれ?)
 何かが完全におかしい気がするが、こうして歩いていれば何もかもが昨日までと同じような気になってくる。
 空も同じくらい青いし、風も同じくらい心地よい。
「あ、健二くん。うちの子、そっちにお邪魔してた?」
 居間では聖美が、食器を並べているところだった。
「おはようございます。はい。あ、すみません。探されてましたか?」
「ほら、やっぱり」
「あの子、本当小磯くんには懐いてるわねぇ」
「あ、は、は…」
 しかし、やはり昨日と今日は違うわけで。
 女性陣からのコメントが、何故か急に健二はいたたまれなくなる。
 今までは弟ができたようで嬉しかった。嬉しかったのだが、僅かに今は何か複雑な気持ちになるのは何故なのか。
(いやいやいや、彼は弟みたいだけれど、友達で。そう、友人! 友人!)
「健二くん?」
「あ、おはようございますっ」
 夏希が顔を出し、健二は姿勢を正す。その後ろから続けて佳主馬が顔を出す。
「佳主馬! あんた、いきなり小磯くんの邪魔をして」
「邪魔してない」
「あんた、本当こいつ好きねぇ」
「うん」
 まるで天気か何かの話だ。
 直美の言葉に素直に頷いた佳主馬を、大人たちが微笑ましそうに笑って朝食へと話題が移っていく。
 佳主馬が子供のような顔で、だが健二をしっかりとみて、口元を上げるように笑った。
(好き、好きって――)
「あ、健二くん今日――…健二くん?」
「はははは、はいっ! い、いえいえ! な、なんですか、先輩っ」
 健二は赤くなりそうな顔を思い切り振って、目の前の夏希の会話に集中するのだった。








健二の視点からは、佳主馬が自分の何気ない行動で動揺してたりなんて、全く分からない感じで。
続きがみたいという言葉にのせられて、ボツ話を発掘してみたよ。笑