(…あれ)
健二はふと寝苦しさを感じて、目を覚ました。見ると、誰かの頭があった。
暫くぼんやりと見つめて、それが佳主馬だと分かる。だが、何故佳主馬がここに居るのか。半分寝ぼけた頭は、記憶を掘り起こせない。
掘り起こせば、とても正気ではいられなかったはずだが、幸いにも健二は現状にさして疑問を持たなかった。
(かわいい、なぁ)
佳主馬が自分にしがみつくようにして眠っている。弟がいたら、こんな感じだったのだろうかとぼんやり考える。
暖かい、未知の生き物。
長野は夏とはいえ、夜は結構涼しい。
「ん」
体は非常にだるく、何故か動かすことがひどく億劫だった。
それでも、タンクトップから出ているむき出しの肩をみて、健二は無意識に数度暖めるように撫でて布団をかけてやる。
そしてそのまま、再び眠りに落ちた。
「……っ」
佳主馬はふたたび聞こえた寝息に、ようやくつめていた息を吐く。
その顔が真っ赤なのは、息を止めていたからではなく、負けたと思ったからだ。
(ち、くしょう)
ああ、やっぱり自分はまだまだだ。
今年、後悔しないためにも絶対になんとかしてやるつもりで、襲うことは考えていた。
こうして無理やり触り、しがみついていても、健二の本気の否定がくれば、きっと自分は開放するしかない。
それなのに。
それなのに。
(暖かい)
ぎゅっと目を瞑り、冷えた肩にかかった暖かさを思う。
(ちくしょうちくしょう)
夏希がいなければ会うことはできなかったとわかっている。だが、何故自分の方が先に会えなかったのか。
(けど、いいんだ)
佳主馬はもう何度も考えたことを思う。
それでも、優しい健二だ。
ああして迫れば、きっと限界まで。彼が許せる限界まではきっと付き合ってくれるはずだ。
自分が女子であれば、きっとこうはいかなかった。
(見てろ、よ)
いつか。
いつか、本当に機会があれば夏希から絶対うばってみせる。
機会がなくとも自分は我侭で欲しいものは絶対に手に入れるつもりだ。もう、あの日のように負けることも、諦めることもしたくはない。
そう、諦めない。
佳主馬は、強くそう思いながら、体を包む暖かさに負けるように、ゆっくりと眠りに落ちていった。
小さなオマケでした…