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 イルカの体に触れるのも、抱くことも好きだ。
「ひっ」
 解した場所が、ぐちゃりとした音をたてる。音をわざと立てるように動かすと、イルカがひきつったような声を出した。
 それを見下ろしながら、カカシはうっすらと笑う。
(たまらない)
 イルカの辛そうな声。快感を受け止め切れなくて、戸惑うその姿。それを見て、可哀想と思ったことは無い。イルカが泣いて、やめてと叫んでも可哀想だとは思わない。
 イルカは快楽に弱い。というより、快楽を怖がっていて、いつもどこか戸惑っている。
 腰を抱えなおし、深く抉る。腰だけ高くあげた格好は、イルカの顔も、昂りもよく見えてカカシをより高揚させる。
「可哀想に」
 続くゆるい快感、たまにそれを忘れさすような鋭い感覚を与えているせいで、まだ達することの出来ない性器がだらだらと精液を零している。
 それに対してだけ、カカシは優しい声で可哀想と告げた。
「もっと?」
 体を折って、イルカの耳元で囁く。
 強制だろうが、なんだろうが構わない。イルカの中に、自分を刷り込んでしまえるのならば、それでもいいような気がする。
(もっと、もとめなさいよ)
 ぎゅっと、イルカの手がカカシの腕を掴む。
「ああ、いいねぇ」
 その動作に、カカシは笑う。
 無意識に、配られた弁当を見てイルカを思い出した。それと同じように、ふとした瞬間。
 手は、無意識にイルカを探す。
 足は、無意識にイルカの元へと戻る。
 そしてこうして、直に触れたいと思う。
「何、考えてるんですか」
 よそ事を考えていると思ったのか、イルカの爪がカカシを傷つける。それでも、イルカの手はカカシから離れない。
「あんたのことですよ」
 カカシはうっすらと笑って、イルカに深く口付けた。
「ん、んん――っ」
 そのまま腰を使い始めれば、イルカがうなり声をあげるが、それも舌ごとからめとってしまえば、イルカの体が暴れるように動く。それすらを押さえ込むように、空いている手でイルカの性器をきつく握り締めるような愛撫を施せば、限界まで昂っていたそれは、あっという間に弾ける。
「っ」
 その瞬間軽く舌を噛まれるが、かまわず深くイルカの中を抉れば、イルカの体が不規則に震えた。口を離せば一瞬、唾液が二人の間をつなぐ。イルカはそんなことには気づかないようで、ただ与えられる快感に咽び泣き、頭を振った。
「ひっ! まって、まっ」
「だーめ」
 頭が沸騰する。暴れ狂っているイルカよりも、元々狂っている自分の方が、にどうしようもない状態に落ちている。
(それでもいい)
 狂っているのは二人ともだ。だから、二人とも別に可哀想ではない。
「もっと、でしょ?」
 イルカが悲鳴をあげながらも、その言葉を肯定するように縦に頷いた。
(すっきりする――いや、ぞくぞくする)
 カカシはイルカの首筋に吸い付きながら、己の性器を奥まで入れる。
 お互いの下半身は、汗や、潤滑剤や、精液でひどい状態だ。それでもかまわず、カカシは更なる行為を要求する。
「っ」
 イルカの声が掠れ、体に纏いつく手足の力がなくなってきたのを感じた頃、温かいものにきつく締められたカカシは、ぶるりと震えて、精液をイルカの中で放つ。
 イルカの体が数度はね、カカシは震えるイルカの性器も無理やり促すように一緒に嬲る。先端を押さえるように弄れば、勢い無くイルカも達する。だが、その感覚にイルカは置いていかれているのか、呆然とした瞳をしていた。
 呼吸を整えながら、カカシはその瞳を暫く見つめる。
 やがてイルカの瞳に僅かに力が戻り、カカシを捉える。
「最近さ、ずっと苛々してたんだけど」
 カカシはイルカを見下ろしながら呟く。
 話しながら、今更だが運動したせいか、若干腹が減ったような気がする。食事が先だと言い張ったイルカをあっさりと押さえ、ことに及んでみたが、言われた通り食事をしてからでもよかったのかもしれないと思う。
「なんだか、もうすっきりしたね」
 苛々していた感情が何だったのかは、聞かなかった。なんとなく、漠然と色んなものが絡み合ったそれの正体はカカシ自身でも理解できる気がした。
 そのせいか、食事のことを思っても、アスマと話していたときほど苛々しない。腹の底からたまっていたあの感情は、全て霧散してしまったようだ。
 イルカと話をすると、やっぱり自分は落ち着くのだとカカシは改めて思う。そして同時に、思っていた以上に、すっきりとした感覚に体が慣れてしまったものだと思う。昔のように、長期間、苛々とした気持ちを持つのは、もう難しいのかもしれない。
 それは、暗部という場所が、もう自分に不必要になったことを告げていた。
(ま、いいけど)
 あの頃は殺すことでしか発散できなかったが、今は別に方法がある。この人の側に居れば、話を出来ればいいのだから、ひどく簡単だ。そして、そんな風に思う自分は、まるで普通の人間のように思えた。
 イルカは、喋っているカカシをじっと見ている。
(可愛い)
 まっすぐな瞳に、反射的に思う。疲れて、気だるげな所もいつもと違って、どこかそそる。
(はっ)
 思った思考に、カカシはまた青ざめる。
 だがそもそも、優しくしたいと宣言もしているのだ。
(つーか、もういっそ)
 カカシはこの際、イルカはもうそういう存在だと思い込むことにすると決める。それがどんな感情に起因しているかとか、そんな些細なことはどうでもいい。ただ、結局は自分にとってイルカはそんな存在なのだ。
 それは、苛々していた気持ちの正体にとても関係していることだが、今はまだあまり正面きって向かい合いたいとは思えない。今は、漠然としたまま理解していたい。
「カカシさん?」
 そんな風に、カカシが大きなものを一つ飲み込んだことなどに気づくはずないイルカは、ふと首を軽くかしげて純粋な瞳で呟いた。
「欲求不満だったんですか?」
「……」

 次の日。
 イルカは、久しぶりに一睡も出来ないまま出勤することになったのだった。





  END












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