イルカはラーメンが大好物だ。 どれくらい好きかと言われれば一週間毎日三食でもいいくらいで、たまに気を抜くと延々と一楽に通いつづけ親父にやんわりと止められるまで食べに行ってしまうときもある。 そんなイルカの今日は嬉しい給料日。だからもちろん外食で、もちろん行き先は一楽だ。同僚らもそんなイルカの行動を知っているから、誘っても断られることまで知っているから、だから給料日はイルカを誘わない。同僚らはさすがに毎日ラーメンでもいい!という生活ではないのだ。 「あー……」 だがそんなイルカの足取りは今日は重い。 とぼとぼ。 そんな表現がいっそでてきそうなほどだ。 「どうすっかなぁ」 呟いてぽりぽりと頬を掻く。 (つーか、ナルトも立派になりやがって。一丁前におごってやるだと?ったく…) 最近はイルカは給料日は同じラーメン愛好家のナルトを誘って、もちろんおごりで食べに行っていた。だが最近は一丁前にナルトが奢ると言い出すのだ。最初は嬉しかったが、それが続けばお互いどこか俺が払うと勘定の取り合いになってくる。それを無くすためには回数を減らすしか今は解決策が無かったのだ。 だから今日は1人でいかないといけない。 せっかくの嬉しい日だというのに1人で行かないといけない。 だからイルカは重いため息をついていた。 (あ) しかしふとイルカは思い出す。 「もう1人いるじゃねぇか…」 奢ってまででも食べさせたい人。お礼をしたい人。 だからイルカはすぐに向きを変えて走り出した。最近なんだかんだでお世話になっている人物を1人思い出したのだ。 (カカシ先生なら、まだ一緒にラーメン食いにいってねぇし、上忍なら普段ラーメンなんて食わねぇだろうから新鮮でいいかもしれないよな) だが受付に行けば、控え室に行ったと言われ、控え室にいけばさっきアカデミーに行ったと言われ、アカデミーに行けば、ついさっき出て行ったと言われる。 「…」 ついさっき出て行ったならこの辺りにいるかと生徒に聞けば校庭で見たといわれ、行けば屋上にいったと言われ。屋上にいけば、受付に戻ったと言われる。 「……何故」 こうなるとなんだかもう意地だ。 受付にもどればタッチのさといわれ、駆け出せば昇降口で今見たと言われ、校庭にいけば今までそこにとか言われてしまう。 そのまま教室、階段、倉庫に図書館。屋上まで全力疾走してイルカはぐたっと倒れこんだ。 「い、…ぜぇ、一体……ぜぇ、どこにいるんですかっ」 とうとうイルカは屋上で叫ぶ。 よく考えれば普段はふと思えば妙に側にいた。 「あーもう!カカシ先生っ!」 叫んで振り向けば、カカシが立っていた。イチャパラをごく自然に読んで立っている。 「……」 一度もと見ていた方向を見て、ゆっくりと立ち上がり、瞬きをしてもう一度振り返る。カカシの姿は消えている。 一通り屋上を歩き誰もいないことを確認して、それからまたゆっくりと前を見て、呟く。 「カカシ先生」 振り向けば居た。 「……」 「……」 「………」 「………」 カカシは一生懸命イチャパラを読んでいる。 「……カカシ先生…」 「あ。イルカ先生。偶然ですね。こんばんは」 明確な意思を持って呼びかければ、ぱっとカカシの顔があがる。一瞬にしてイチャパラはどこかへ消えている。 (……。偶然なのか。これも偶然なのか!?や、これもある意味偶然なんだよな。いや、もう偶然だ) 混乱した思考で間違ったことを刷り込まれながら、イルカは疲れを感じてその場に座り込む。肉体の疲労はさすがに騙されなかったらしい。 「あれ?どうしました?」 「……カカシ先生を探してたんです」 「はぁ…。え!?」 かつてない程のカカシの大きな声にイルカが顔をあげるとマスクの上からでも分かる程カカシが驚いている。そんな態度に逆にイルカの方が驚いてしまう。 「俺を、探してたんですか」 「は、はぁ」 「イルカ先生が」 「俺が、ですが…」 「俺に用があったと」 「え、ええ」 妙に真剣な顔で近付いてくるカカシに気おされつつイルカは、そうだ用件と思い出す。 「あのですね。よければ奢りますんで…いつもの俺に、ラーメン食いに行きま」 「親父、みそ2つに餃子ね」 「せんか…って、ええええ!?」 「あ。お祝いだから大盛りに秘蔵チャーシューつけて」 一瞬だ。 本当に隙は一瞬だった。だが気が付けばイルカは一楽の屋台にいた。一楽の親父は何の疑問も持ってないのか頷いて作り始めている。 え、あ、う。と言っている言葉はもはや意味をなさない。 むしろ何故カカシが常連でも知らないかもしれない、秘蔵チャーシューのことを知っているのかと、上忍だからなのかとか余計なことを考えてしまう。 「ま。ラーメン食べて元気だしましょう」 「は、はい」 「はい。こっちのがチャーシュー多いですよ」 にこやかにラーメンを進められイルカは一口食べて、やっぱり美味しいその味に一瞬で混乱を忘れた。正しくは捨てた。 美味しさににこにこしつつラーメンを食べ終われば気づけばカカシにやっぱり奢られていた。だが上機嫌なイルカは気がつかない。 「やー今日はいい日でした」 「ですね」 奢るつもりだったことを忘れたイルカは笑顔でカカシに頷いた。 「よかったら今日はうちにきてみますか?」 「いいんですか?」 あげくに見たこともなくて気になっていた家への誘いまでもらってしまい。イルカはとうとうカカシの家へと足を踏み入れた。 カカシの家にはさっぱりしていたが唯一あった本棚にはイチャパラシリーズがぎっしり詰まっている。 (『いちゃぱらが伝授!「普通の」恋愛成功の秘訣』?カカシ先生でもこんなの読むのか) 妙な関心をしているイルカは、その本の1,2枚捲る。 (何々。困ったときに助けられるようほどよく側にいる。偶然を装うことが大切です?。なんだ、イチャパラシリーズだけど案外普通なんだなぁ) そんな感想だけをもって、イルカはそれ以上ページを捲ることなく本を閉じる。そしてすぐにカカシの笑顔と、ナルトの話題を聞いてくれることに心地よくなり、結局その日は気づけばカカシのベットで目覚めたのだった。 あげくカカシの朝食を作る匂いで目がさめた。 (…本当カカシ先生いい人だよな。彼女が羨ましい…)
そんなことを自然に思ってしまいながら、今日のイルカの一日も始まるのだった。
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