獣の夢  



 家に入るまで、お互いずっと無言だった。
 扉を閉めると、カカシはずっと掴んでいた手を離し、ゆっくりと振り返る。そして、男をそのまま玄関に押さえつけて、口付けた。
 男の口を無理やり開き、生暖かい舌を絡めとり、その口内を味わう。
「ねぇ。あんたを抱いてもいい?」
 男の口元から、零れた唾液を舐めて、耳元で囁くと男の顔が困ったような、泣きそうな顔になる。
「まぁ嫌だって言ってもきかないけど」
「…じゃあ、聞かないでください」
 その言葉に喉の奥で笑う。
 立ったまま男のアンダーをまくり、胸にちゅっと音をたてて口付けると男の体がゆれる。自分の頭を抱え込むようにされ、動きを止めようとしてるのかと思うと、更にカカシは楽しい気持ちになった。
 不自由ながら、突起を甘く噛み、嬲りながら男の下肢へと手を伸ばし、最初から遠慮もなく握り締めた。
「っ!」
 空いた片手で胸元から軟膏をとり、歯を使ってキャップをあけ指先に取れるだけ取って、ケースはそのまま落とした。そしてその指を入り口へとなすりつければ男の体が震えた。
「ちょ、まって」
「嫌ですよ」
「嫌ですよ、じゃっ。あ、あっ」
 何か叫ばれたら堪らないと、堅くなりつつある性器を嬲る手を早くする。
「でも、気持ちよさそうじゃない?濡れてきたよ」
「言、うな!」
「だって、見えないだろうから」
 ぐりぐりと先端を嬲れば、呼吸が荒くなる。その息遣いを肩に感じるとぞくぞくとカカシの背中を重い感覚が走り抜ける。
 中へ入れた指をゆっくりとかき回せば、男は気持ち悪いのか逃げようと体を動かす。胸の突起に歯を立ててそれを制せば、男はうう、と何かを堪える声を出した。
「大丈夫。初めてでも気持ちよくなれるから」
 男って、案外便利なんですよ。と言うと頭をぶつけられた。
 根元を優しくあつきながら、指でもみこむように動かし、あふれ出てきた液体でぐちゅぐちゅとわざと音を立てる。
「あっ」
 だが、突然男の体が、大きく震えた。
「う、あ…っ、ま、ってっやだ、やだぁぁっ」
 暴れだしたのは、多分中で前立腺を擦ったからだろうとカカシは笑う。
 大丈夫ですよ、と言いながらも同じ場所を強弱をつけてすり続ければ男はとうとう膝に力が入らなくなったようで、体が地面へと近づいていく。
「んぁ、ああっっ」
 その重みで指を深く飲み込んでしまい、男の声が切羽津まる。
 性器を嬲る手に少し力を加えて、先端を指で刺激すれば、重なる快感に耐え切れず男は達した。
 そして完全に力が抜けてしまった体を、カカシは玄関へうつ伏せにさせる。地面との段差がちょうど膝程度まであることがこんな時には便利だと思った。
「ちょっと、我慢して」
 カカシは言いながら取り出した自身を数度擦って、入り口へとあてがう。
 男が何か言った気がするが、気にせずぐっと中へと埋め込む。男の性器を嬲りながら、ゆっくりと中へ進めていくと、男の中は信じられないくらい熱く、気持ちがよかった。
 完全に埋め込むと、男はぐったりとしていて、それがかわいそうで代わりに性器を両手で嬲り、中のものは動かさないように捲り上げたアンダーから見える背中に口付ける。そのたびに男の体がびくびくと震えた。
「動くよ」
 最初は軽くゆするように。
 それから、徐々に突くように動く。
「っ」
 最初は男の快楽を気にする余裕があったが、途中からそんなものは無くなった。
 気持ちいのだ。
 何も考えられないほど。
 きゅうきゅうと包み込んでくる肉に、泣きたくなるほど気持ちよくなる。
 がんがんと打ち込むと、途中で堪らなくなり、低く呻いて射精する。そこでようやく男がぼろぼろと涙を零していることに気づいた。
 ごめんとか、謝る言葉は頭から消えていた。
 ただ、その涙が美味しそうでぺろりと舌を這わす。
 男の性器はまだ堅く反り返ったままで、ぶるぶると震えていた。それを優しく手で包み込めば、萎えた自分の性器をきゅっと締められてカカシは低く呻く。
 だが、ふと男の顔が自分の顔を捉えて、そして少しだけ優しい表情になった。
「…気持ちい、んですか?」
「ええ」
 嘘をついてもしょうがないので、カカシは素直にうなづく。
 すると、男が涙でぐちゃぐちゃになった顔で、ゆっくりと笑った。
「尻尾が、揺れてます」
「っ」
 恥ずかしい。
 わけではなく、ただその男の笑った顔にかーっと頭に血が上った。
(なんて、顔で…っ)
「な、ちょっ!」
 たまらず、腰を動かすと男の口から苦情があがる。
 悔しくて角度を変えて探すように腰を使ってみれば、あ、う、とかみ締める声がだんだんと甘いものへと変わっていく。
「ねぇ、堪らなくなろう?」
(俺は、もう堪らないから)
 自分のテリトリーにまで、信じろ、と入ってきた馬鹿な人。
 それならもっと近くになって、どろどろになりたいと思った。そして初めて、セックスが何なのか分かった気がした。
「な、…っあ!」
「ね、俺がどれくらい気持ちいか、ちょっとは伝わる?」
 ぐりぐりと男が声をあげる場所を嬲れば、男の声は甘くすすり泣く声に変わる。それが気持ちよくて、散々そこをいじって、手であふれる蜜を塗りこむように嬲ってやれば、あっというまに二度目の液体を弾けさせた。温かい内壁にぎゅっと締め付けられ、カカシもつられそうにもなるが、それをなんとか堪える。
「動くよ」
「ちょっとまって!まて!、まてっ」
 男の悲鳴があがるが、これだけは聞けないとカカシが腰を使いねじ込んでは引くを繰り返す。
「あ、あ、あっあっ」
 男の手が、板を引っかく。
 その仕草が視界に入り、かわいそうに思えて男をそのまま抱きかかえて、自分が今度は玄関に座り男をその上に乗せるような格好を取る。
「いたっ」
 だがそうすると背中がカカシにあたるせいか、男から苦情があがり、カカシは一度抜いて男を自分の方に向かせ、それから一気にまた埋め込んだ。
「ひっっ」
 衝撃は酷かったのか、男の体がぴくぴくと震える。
「ごめーんね」
「わ、るいと思ってないくせに…っ」
「でも、あんたも、本当は怒ってないじゃない」
 言うと、男は悔しそうな瞳を見せる。そしてそっとカカシの獣の耳に触れる。そして片手で背中を撫でる。
「っ」
 ぞくりと、気持ちよさが駆け抜ける。
 それを見て、男が少しだけ驚いたように瞳を大きくした。
 それから、にやりと笑うとそのまま男はカカシの首筋を舐めてきた。頭を抱きかかえるように手を伸ばし、耳を撫でられながら顎の方まで撫でられると背筋がぞくぞくとした。
「…そっちが、…その気なら、知りませんよ」
 体を押さえ込みながら、下から突き上げると男が息を呑んだ。
「しっかり、捕まって」
 それを数度繰り返してやると、男は悔しそうに、だが腕をカカシに絡めたままくったりとした体をカカシに任せてくる。男の性器は、揺れて擦られ、更に内壁も思うまま深く突かれ、また堅くなってきている。
 体はしっとりと汗ばみ、肌にあたる男の息は焼けるように熱い。
「ゆ…っ、い」
「え?何?」
 男が何かを最後、呟いたがカカシは上手く聞き取れなかった。
 それからは動くことに夢中になり、もうお互いろくな言葉を喋らなかった。

『揺れてるから、いいです』

 男は、揺れる尻尾を見ながら、微かに笑って、そう呟いたことをカカシは知ることはできなかった。







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