獣の夢  




「…俺は、一応療養ということで、ここに来てたんです」
「はぁ」
「で、来たときより悪化してどうするんですか」
「だって、俺療養って知らなかったですし」
 布団に横たわる男の側で、カカシは至極真面目に答えていた。
 今、カカシの頭から耳も、尻尾も全て消えた。朝、目が覚めたら無くなっていたのだ。
(病は気から、ならぬ呪いも気から、って奴なのかねぇ)
 カカシは、ゆっくりと男の髪を撫でる。
 撫でられるのも気持ちよかったが、撫でることも気持ちがいいとカカシは思う。
「イルカさん」
「…なんですか」
「また、怪我したり具合悪くなったら、拾ってくれますか?」
 その言葉に、イルカは目を見開いた後、ため息をついた。
「嫌ですよ」
「えー」
「…そんなときばっかり来ないでください」
「え?」
「……朝起きて、居なくなられてるのは結構嫌なものなんです」
 その言葉はどういうことか。
 驚いて手の動きが止まっていると、今度は男が手を伸ばして、カカシの銀色の髪を撫でた。
「ふかふかですね」
 まだ耳があるみたいです。
 と男は笑った。
「あなた、本当に甘いね」
 カカシは、そう呟くのが精一杯で。だが、男はその笑みのままさらりと答えた。

「別に誰しもに甘いわけじゃあ、ないですから」

 その言葉に、今度こそカカシの動きが完全に止まったのだった。







END









予定より長くなってしまいましたが…
ここまでお付き合い、ありがとうございました!