「と、いう夢をみたんですが」 「………」 「ちょっと玄関プレイいいと思いません?」 「……」 イルカは機械的な動作で目の前の白いご飯を口に運ぶ。 だがカカシはそれをまったく気にせず、話を続ける。 「そんなわけで、刺激を求めにいってみましょうよ」 「……か」 「え?」 イルカのつぶやきに思わず問い返すと、激しい音をたてて茶碗がちゃぶ台におかれた。 「それは夢じゃないっていってんだ!この変態が!」 「えーだってもうけっこう前の話じゃないですか」 「だってじゃないっ!それに、その平和ボケしたふりをやめて下さいって何度言えばわかるんだっっ」 イルカが叫び髪を振り乱すが、カカシはにこにこと笑ったままだ。 最近この上忍はどこで覚えたのか愛想笑いを覚え、それにより周囲からの評判はよいがイルカにとって視覚の暴力が増えたに過ぎない。 「まぁまぁ。ねぇイルカ先生」 「何ですか」 ギロリとにらむがもちろん効果は無く、反対に体を引っ張られ、箸が手から落ちる。 「ねぇ帰りたくないって言ってください」 「は?」 「ね、言ってくださいよ」 にこやかな顔。だけれどイルカの体の動きが一瞬止まる。
それは本気だと感じたからだ。悲しいことにこの数年で、イルカの感覚はカカシの思考に敏感になってしまった。 「……言えません」
手を離せとか、食事中に何するんだとか言いたいことは沢山あるがこの状態ではイルカはいつも何も言えなくなる。それを知ってか知らずしてか、どちらにしろ根底ではイルカなんてどうにでも自由にできると思っている憎い思考のせいか、イルカの恋人でもあるだろう男はうっとりと頬を摺り寄せてくる。 「えー、言ってくれないんですか」 「だから、言えないんです」 「何それ」
カカシの顔を離して、それからマスクに半分覆われた顔を改めて見る。
最低な男で、人を人と思わず、わざと怒らせることや酷いことを言ってくる。気まぐれで、我侭で、それでいて強いから手に負えない男。本当に何故自分はこの男にほれたのか、カカシに言われ出会ったころを思い出しても本当に分からない。 だけれど。 「だから、自分の家がここなのに、帰りたくないとは言えないでしょうっ」 怒ったように言えば、カカシは今気がついたようにあ、と言ってそれからにやりと、偽者じゃない、たちの悪い笑みを見せる。 イルカはあの数年前以来、家に帰っていない。ただしくは家は勝手に売られてしまった。 それでも最初は帰りたいと叫んでいた。だがもう今は叫ばない。 「さすがイルカ先生」 この性格の悪い笑みに、うっとりしてしまう自分は馬鹿だとわかっている。
だがやっぱり、この伸びてくる手にそっと目を瞑りたくなってしまうのだ。本当に馬鹿だと、いつもいつも思いながら。
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