「んあ…っ」
暗闇の中。響いていた艶めいた声が途絶え、静寂が訪れた。
「やー。燃えましたねぇ、イルカ先生」
そしてさわやかな笑顔で額の汗を拭く男を、イルカは視線で人が殺せないだろうかと願いを込めて睨みつけた。
「…て゛、はずじて、ぐださい…」
「あ。すみません〜声枯れちゃいましたね、大丈夫ですか?」
すみません、といいつつ後ろで縛られた手を男はすぐに外すそぶりは見せず、ゆっくりと頬から首辺りを撫でられ、イルカは怪しげな感覚を己が感じる前に、激しく首を振った。
「い゛い゛から、ばずぜっていっでるんです…っ!」
大晦日。
アカデミーの大掃除をなんとか終わらせ、途中で出会ったナルトと年越し蕎麦ならぬ年越しラーメンを食べ、帰宅したら。
電気をつける前に、何故か床に転がっていた。
(え?)
と思う暇もなく、後ろ手に縛られ、あげく猿轡。
だけれどそれを行ったのは、ある意味お馴染みの某変態上忍だった。
そのまま無理やり、荒々しい手つきでまずはその場で犯されて、ちょうど終わった頃にイルカは最後の年越しの鐘を聞いた。
疑問やら憤りやら快感で訳の分からなくなった頭を、なんとかしっかりさせようとした所、ようやく猿轡も外されて文句を言おうとしたが。
「あっ」
「ごめーんね。ちょっと急いでたから…」
「ちょ、あ…っ」
男は、まだやる気だった。
(ふ、ざけんなぁぁぁぁっ)
と頭では思うものの、1回やってしまった体では陥落も早い。
さっきのお詫び、と本人が言うように全身舐められ揉まれているうちにイルカの理性は再び崩壊した。
そして、現在。
「…だって、外したら俺を殴るでしょう?」
「とう、ぜんでずっ」
「殴られるのは全然構わないんだけれど、イルカ先生に殴られると寂しくなるんですよねぇ…」
じゃあ殴られそうなことをやるなよっ、とか寂しいくらい我慢しやがれっとか一気に言葉が喉に集まってイルカは上手く声が出ない。
そんなイルカに何を思ったのか、カカシが側にあった水を己の口に含み、イルカに口付けてきた。
(あ、水)
直接飲ませろ、馬鹿が。と思ったものの喉が渇いているのは事実なので素直にそれを飲み込む。
少量の液体でも、枯れてしまった喉が、少しは潤う気がした。
何度か繰りかえり、口元からこぼれた水だか唾液だか分からぬものとを男の指が優しくぬぐう。
男は、多分基本的には優しい。
だけれど、自分のやりたいことは何でもやろうとする。
我が侭な子供。
だが、子供以上にたちが悪いのは、男は上忍で、とても器用な男だったということかもしれない。さらに言えば、愛情の出し惜しみをしないところとかも付け加えられるかもしれない。
「俺は、怒ってますからね」
「だって、先生年納め、姫初めやろうって言ったって嫌がるでしょう」
「こんな仕打ちされれば、余計怒るっていうんです!」
「我が侭だなぁ」
真顔で言われて、イルカの血管が一本、切れる。
「こ、んのぉ、……人でなしっ!人非人っ」
だが、男はさらりとしたものだ。
「それは今更ですよ、イルカ先生」
あまりにさらりと言われてしまって、イルカは言葉に詰まる。
一番腹立たしいのは。
我が侭なところでも、たちの悪い性格でもなく。
さらりと、全く何でもないことのように自分自身を扱う。
(本当にまさしく、こういう所なんだよっ!)
こんな戯れのような中でさえ、男はいつも自分が人でなしだと分かってる、というような目をするのだ。
『普通の人なら出来ないような酷いことを平気で出来る人たちがね、暗部にいるんですよ』
(俺の方が、怒っているっつーのに!)
「……嘘です」
「へ?」
「人でなしは取り消します!」
言うと、今度はカカシがぽかんと口を開けたまま固まった。
「…これ、ちゃんと外してください」
「……、はい」
カカシがのそのそと動いて、チャクラをこめられていた布を切る。そこでようやくイルカは己の両腕が自由になり、まずは男の頬を思い切り拳で殴りつけた。
「ぐは!先生、手加減なしですか〜」
「ありません、あなたにそんなものっ」
そしてそのまま、イルカはベットの上で半分転がってる男にのしかかるように抱きついた。
「…あなたが、嘘でも傷ついたとか、酷いって言ってくれないと喧嘩にもならないんですよ…っ」
「……。善処します」
カカシの手がイルカの頭を撫で、顔をあげるとそっと口付けられた。
そしてカカシの手がイルカの背中を撫で、ゆっくりと下肢へ近づいていく。
イルカの体はピクリと一度震えただけで、離れるそぶりは見せない。カカシはイルカの見えないところで、そっと苦笑いを浮かべる。
(この人って、本当甘いよなぁ)
でも甘やかされるのに、許されるのに、子どものように喜んでいるのは自分なのだからと、今はその甘い感覚を楽しむべくイルカの肌に吸い付いていった。