もしもの話 後編 1 


「初めて聞いたよ、そんな願い」
 魔法の釣竿を渡した神様は、驚いた声を出した。
「だって、可哀想だろ」
 イルカは夢の中で答えていた。相手はもちろん自称神様だ。
「誰かが無くすっていうなら、俺はそれで十分だ」
 イルカは竿を投げた。釣るものは小さなものだ。
 誰かは『せっかく神様がくれたのに』と嘆くのかもしれない。
 何故なら、イルカが吊り上げることを望んだもの。それは――『未来の自分が持っている、幸せをほんの少し』、なのだ。
 多く盗りすぎたた未来の自分が不幸になる。だから、ほんの少しだけ。今の寂しさを、苦しさを埋めてくれる程度だけ、先取りさせてもらえれば十分だ。
「…いい子だねぇ、イルカ」
「別に」
「だから、何かをしてあげたくなるんだよ」
 にこにこと笑っていた神様は、本当に嬉しそうな顔をして笑っていた。
(あれ?)
 最初は見えなかった神様の顔は、いつの間にか見えるようになっていた。どこか、嘘くさい空気もなくなっている。
「将来、うちの子も宜しくね」
 黄色の髪をした、どこかで見たことのあるような神様は、最後に笑ってそう呟いた。




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