まさかの話 後編 1 


「今、辛い人ぉ?」
「…俺、死ぬんだろうし」
 イルカは呟く。多分自分は死ぬ。それは分かっていた。
「だから、少しの間だけ。寂しくないように、話せれば十分だしさ」
「……お前って本当さぁ。むかつくのな」
 きらきらと光る男はどうやら乱暴な性格のようだ。
「じゃあ仲がいいやつ呼べばいいだろ」
「突然消えたら驚くだろうし、辛い人なら…少しその場を抜けても、気晴らしで受け止めてくれるかも、しれないし」
「はぁ」
 呆れたように男は呟く。
「そんなお人よしだから、てめぇは俺にやられるんだよ」
「え?」
「……止めを刺さなかったのも、おめぇらしいよ。本当」
 悪態をついた男は、布を投げ渡す。それは、よく見ると一部が固い――木の葉の額宛だった。薄汚れたそれは、使い込んだものだ。
「せいぜい、幸せとやらになれよ」
 イルカの視界はそこで消えた。手元から、額宛が消える感触がする。
(死ぬ前に、見た夢なんだろうか)
 イルカは穏やかな気持ちだった。そして、声の持ち主は、どこかで知っているような気がしたが、どこか苛立っていて、そして寂しそうだった。
(俺が、死んだら)
 辛いと思う人はいるのだろうか。少なくとも、すぐには思いつきやしない。
(けど)
 待ってくれている人は居た。夢の中だけれど。誰かが居てくれた気がした。
 最後にまで、そんなことしか思いつかない自分に少し苦笑いをしつつ、イルカの意識もゆっくりと消えていった。




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