もしもの話 前編 1 


 夢の中で、神様が言った。
「これは魔法の釣竿」
 それは、どこにでもあるただの釣竿に見えた。差し出されたそれをよく見ると、持つ部分が少し削れていて、いびつな形をしている。その特徴は、九尾の事件で燃えてしまった、自分が昔に作った釣竿にとてもよく似ていた。
 自称神様の顔は、何かで隠れているわけでもないのによく見えない。
「この釣竿は、一度だけ、お前が望んだものを釣り上げることができる」
「飯とか?」
「どんな豪華な飯でも」
「…お金とか?」
「財宝だって可能だとも」
「……命とか」
「命だって可能だとも」
 芝居がかったような声で、自称神様は頷く。気づけば、自分はとてもキラキラした、よく分からない場所にいた。そのせいか、自称神様がとてもうさんくさくもあり、またどこか本物のような気もしてくる。
「それで、釣っちゃったら、もとの持ち主はどうなるの?」
「当然、盗られて失うことになるとも。だが、きみはそれを気にすることはない」
 一度神様は驚いて、それからにこにこと笑う。そして、そのまま釣竿を渡してきた。釣竿は空を浮き、ゆっくりと自分の手元にやってくる。握り締めて、やはりこの釣竿は自分のものだと確信した。
「さぁ、何を釣る?」
「それなら――」
 そこで、自分が何を答えたのか、イルカは覚えていない。何故ならその瞬間に、目が覚めてしまったからだ。

 そう。なんてことはない。それはただの夢だったのだ。



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